第十三話 雨など降るもをかし

どうやら篠崎まおは100均に用があったらしい。学校からもらったプリントを挟むファイルが欲しかったみたいだ。すっげぇしっかりしてる…。


「大判焼き食べる?」

「た、食べる!美味しいよね!」

「お、好きなら良かった!買い物付き合ってくれたし、お礼にひとつ奢るね!」


ファッッッ!?!?篠崎まおも大判焼き好きなの!?しかも奢ってくれるの!?


「あ、ありがとう!」

「こっちこそ!」


カーッ。これが青春ってやつですか、そうですか。もう俺に悔いなんてないぜ。


横で大判焼きを頬張る篠崎まおを見てたら多幸感でこのまま天に召されそうになっていたら、



ザーーー


雨が降って来た。夏特有の夕立ってやつだ。しかも結構酷めの。ゲリラ豪雨とかいうやつだな。1時間くらいもすれば止むとは思うんだけど。


「傘持ってきてないよ…雷も鳴ってるし怖いな」


他の店で傘見たらどう?と言いたかったが、いかんせん雨が結構強めだし、雷は鳴ってるしでこれいったら鬼畜だよなーと思い止まる。多分言わなくて正解だと思う。


ショッピングモールで篠崎まおと立ち往生。普通だったら羨ましい状況なんだろうけど、少し冷静になってきた俺は気が気じゃなかった。


いろんな人間が集まるピオで、篠崎まおと2人きり。クラスの連中とかいた場合、面倒になりそうだし、なんなら俺のせいで篠崎まおまで悪く言われてしまうかもしれない。


中にあるフードコートの座敷に俺たちは座っていた。テレビとかが壁に付いてて、少しくつろげるスペースである。


篠崎まおは会話が途切れたタイミングでスマホを触りはじめたが、俺はスマホを触れるほど落ち着いてはいなかった。


なんとか会話せねば、とか意味の分からん気の使い方を考え続けており、頭の中でこんがらがっている。そんな時、篠崎まおが会話を持ち出して来てくれた。


「そういえば、この前の掃除当番の時、最後戸締りとかありがと。私あの日、部内の練習試合で早く行かなきゃだめだったから助かった」

「ま、間に合ったらよかった」


篠崎まおはスマホを置いてこっちを見てくる。


うわ、マッジで可愛いってヤバいって。もう語彙力なんてないし、少しでも思考する力なんて残ってないぞ!?


「今日はそのお詫びも兼ねてのお誘いだったんだけど、迷惑じゃなかったかな」

「め、迷惑じゃないし!むしろ嬉しいし!こちらこそありがとうございます、はい!」


迷惑とか言葉を使ってきた篠崎まおに即座に言葉を返そうとして勢いづいてしまった俺。勢い付きすぎてしまったやないかい。


「そ、そうなんだ、それなら良かった」


軽くその勢いに押されて引いてる篠崎まお。ごめん、ほんまごめん。


その時、篠崎まおの携帯の通知が鳴った。隣に置いていたスマホを持つと、素早く画面をフリックしていく。


「お母さん迎えに来てくれるらしいから、じゃあね」

「お、おん」


篠崎まおはそう言うと、サッと立ち上がり、上り框の下に脱いでいたサンダルを履いて立ち上がった。


「ばいばい」


歩き始めにこちらに手を振る篠崎まお。この子、なんて可愛いんだろう。そしてなんで俺はこの子とふたりきりで居たのだろうか。


なんか、罰ゲームでも受けてんだろうか、なんて思ったけど、素っぽかったし、前も思ったけど、性格悪いとか腹黒いとかいう噂は本当なのだろうか?俺がピュアなだけ?


「ふぅ…」


にしても、篠崎まおと2人でいるところを他の人に見られなくて良かった。学校で話題に上がるのとか本当に勘弁だからな。


しかし、夏が明けて二学期が始まったらどうしようか。もしかしたらこっから、学校で篠崎まおから話しかけられたりするかもしれないじゃん?


いや、それはないか。流石に普通にしてたら関わりがない人種だし、なおさら学校なら関わる理由は一切無いからな。


でもまぁ、学校に行くのは苦じゃなくなってる感じはする。前は仕方なく人を避けるためにやってた放課後散歩も、今では少し楽しみになってる感じはするし。八重桜さんに会えたのもその散歩のおかげだしな。


八重桜さん、今日めっちゃ可愛かったな。篠崎まおとは方向性が違う可愛さで、めっちゃヤバい。相変わらず語彙力がないからなにがヤバいとか表現出来ないけどさ。


まぁ、学校生活は、引き続き、変な噂とか流したりとかそれに流されるような人間と関わらなけりゃ問題はない。


ピロン、と俺の携帯に通知が来た。


『今日はありがとうございました、楽しかったです』


律儀すぎるよ…八重桜さん…。


『こっちこそ。楽しかったよ』


ふと外を見ると、夕陽がフードコートの窓に差し込んでいる。どうやら夕立は去ったみたいだ。


マジで色々とありすぎだぞ今日…。


まぁ、悪い気はしないし、良しとする!今のうちに帰るとするか。

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