第十二話 ほのかにうち光りて行くもをかし

「それでは、私はここで」

「お、おん」


お城で年甲斐もなくはしゃいでしまい、結構疲れた俺たちは学校で解散することにした。


自転車を漕ぎながら手を振って去っていく八重桜こはる。バランス感覚どうなってるんだろうか。


送っていくよ、くらい言っていれば良かったのだろうが、家まで付いてこられても困るだけだろうし、俺みたいな人間に家知られたら怖いと思うので何も言わなかった。多分正解だと思う。


八重桜こはるが奥のカーブを曲がり視界から消えて5分くらい余韻を残した俺は深呼吸をした。


「ねぇ」


さて帰るか。そして自転車に跨り、家の方向に向かってハンドルを切ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。


「ねぇってば」

「!?」

「そんな驚かなくても」


不意の肩ポンに立ちゴケしてしまう。自転車を倒したまま、後ろを振り返るとそこには篠崎まおが立っていた。


どうしてここに…!?


「どうしてここにいるの?」


篠崎まおはむすっとしながら俺を見ているように見える。なぜむすっとしてるんだろう、気のせいか?


朝一緒にいた友達はいないみたいなので、篠崎まおも少し前に解散していたのだろうか。にしてもこれはまずい、どう答えようか迷う。


「よ、用事終わって、忘れ物取りに」

「ふーん、忘れ物取りに来たんだ」

「そ、そう!数IIの解説冊子だけ」


とっさの嘘にしては良い線行ってるのではなかろうか。解説冊子とかいう、微妙に使うか使わんかのラインを攻めればあまり疑われることはない…、と思う。


その作戦は功を奏したのか、篠崎まおはそれ以上の追求はしてこなかった。してこなかったのだが。


「ん、了解。あまり忘れ物とかしないようにね?」

「お、おう」

「用事は終わったんだよね?」

「お、おうよ」

「それなら、さ。今から買い物付き合ってくれない?」

「おう…?」


ん!?ん???


「買い物…?一緒に…?」

「そ、だめ、かな?」


上目遣いになりながらこちらに問うてくる篠崎まおさん。


ちょっち待って、状況飲み込めない。ん?篠崎まおと買い物?え?そんなの精神が持ちませんよ?ふたりで遊ぼうぜ発言が今ここで効いてるっての!?


「い、いや!?!?全然駄目やないで!!」

「ふふ、変なの。じゃ行こ!」


思わず変な言葉遣いになってしまった俺を見て、クスッと笑うと篠崎まおはゆっくり歩き始める。


やべー、やっぱり可愛い。八重桜さんも相当だったけど、改めて篠崎まおを見たらこんな美人さん芸能人にもおらんて。


俺は慌てて自転車を起こすと篠崎まおを追って軽く早足になる。


黄昏時。並んで自転車を押しながら青葉の茂る歩道を歩いていく。


「今日はちょっと涼しいね」


なんでもないようにそう言った篠崎まおの頬は少し赤くなってるような気がした。本当に気がしただけだ。けど。


「た、確かにね」

「風が吹くともっと涼しい!」


ニコニコしてる篠崎まおはとても魅力的で、俺は思わずボーッと前を歩くその横顔を見つめていた。


「ん?あー、これ?残りは家族分だからあげられないの、ごめんね」

「ん、いや!別に!大丈夫だよ!」


そんな俺の視線に気付いた篠崎まおは、どうやら手に持っていた夢太郎団子を欲しがってるのと勘違いしたらしく、断りを入れてきた。


もしかして…意外と鈍感なんだろうか?しかし、助かったぜ…。


篠崎まおが歩いてる方向から察するに、どうやら行き先はピオらしい。あ、ピオってたまに放課後に大判焼き買いに行ってるショッピングモールのことね。


そこから他愛のない話をしつつ、俺と篠崎まおはピオに到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る