第十一話 また、一つ二つなど
梅森で無事醤油カツ丼を食べた俺たちは、お城に向かうことにした。
「美味しかったですね、ご馳走様でした」
「お、おん」
醤油カツ丼を頬張る八重桜こはるの姿は幸せ感に溢れるものだった。やっぱりカツ丼食べたかったんだろうな。
「お腹いっぱいです」
片手でハンドルを握り、片手でお腹をポンポン叩く八重桜こはる。ひとつひとつの動作が面白くて思わず笑いそうになってしまう。
このままお城登れるかと聞かれたら少し厳しいかもしれないが、八重桜こはるの前であんまりカッコ悪いところは見せたくない。
普通はあんまこんなこと思わないのだが、何故かこの子には無意識のうちにそう思ってしまう。
そうこうするうちにお城の下まで着いた。
梅森からお城はあまり離れてないため軽いサイクリング気分で行くことができる。
「自転車はここにおいて、いざ登りましょう」
「おん」
頂上の天守閣まで少し登ることになるこのお城は高いところに作られており、霧が立ち込める早朝に近くの山から見ると、雲海に浮かぶ城に見えるため、天空の城という異名があったりする。
そのため頂上から見る景色は良い。
登るまでが試練だけど。
「ゆっくり行きますから」
「お、おん」
八重桜こはるは軽い足取りで階段を登っていく。運動不足な俺だが、それは言い訳にしたくない。
行くぜ。昨日運動した成果を。
「ぜぇ…ぜぇ…」
そんな急には無理だった。見事に中腹手前くらいでバテた。カッコつかないぜ…。
「ぱいせん、急がせてすみません。今度はほんとにゆっくり行きますから」
「ぜぇ…お願い…」
ある程度登ると、ベンチとゴミ箱が置いてある中休みゾーンがあり、そこで俺はへばっていた。なんとまぁ、普通にカッコ悪いところを見せてしまった。
持ってきてた500mlのスポドリを半分くらい飲み、俺の前で準備体操をしている八重桜こはるを見る。
八重桜さんはかわいい。客観的に見ても美少女の部類に入るだろう。どうして八重桜さんは俺なんかを遊びに誘ったのだろうか。
「あの、八重桜さん」
「?どうかしましたか?」
「カッコ悪いとこ見せてごめん」
「いいんですよ、ぱいせんはそんな感じで」
あんまり休んでばかりもいられないので、この前新調した靴の踵を鳴らし、頂上へ向けて階段登りを再開する。
「カッコ悪いのも青春ですよ」
「?」
「なんでもないです」
階段を登ると、少し開けた場所に出た。城門があり、そこをくぐるとお城の入り口に着くのだが。
「やっぱり景色いいですね」
「お、おん」
今日の天気は晴れ。街を一望できる上に、雲も綺麗で絶景スポットに選ばれるのも分かる景色だ。
地元に住んではいるが、ここに登ったのなんて小学校の遠足以来だ。
景色を眺めてる八重桜こはるは、腕を上に伸ばして軽く伸びと深呼吸をすると、こちらを向いた。
「楽しいです、私は。ぱいせんはどうですか?」
にこっと笑いながら少しこっちに近づいて来る八重桜こはる。そんな彼女に俺は少しドキッとしたが、どうにか平静を装う。
「お、俺も楽しいよ」
「なら良かったです」
そして八重桜さんはガタガタの石畳の上を器用にぴょんぴょん跳ねるように走って行く。
その姿ははしゃぐ子供のようで、見ていて心が幸せになる。
愛らしいという感情はこういう感情なんだろうな。
「早く来ないと先行っちゃいますよー!」
はしゃぐ姿に見惚れていて気付かなかったが、八重桜さんは結構先まで行っており、だいぶ小さくなってた。
速ぇ…。
「ちょ、ちょ待てよ!」
そんな八重桜さんを追って俺も走り出す。
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