第九話 やみもなほ
結局1週間が過ぎても全く連絡がなく、いつも通りの夏休みが過ぎようとしている時。
「ふぁぁ」
結局何もないんかい。もう1週間経つで。でもまぁ、まだ夏休み長いしなぁ。でも何かあって欲しいなぁ。
そして俺は何気なく開いたSNSの八重桜こはるの一言メモを見てしまった。
「ぱいせん」
一言メモにはそう書いてあった。
なんなんだろう。あの子にとって先輩は幾らでもいるわけだし、自信過剰になってはいかんぞ俺。
しかし見てしまったもんは気になるので、他のことが手につかねぇ。漫画見ようと思ったけど、「八重桜ぁぁ!!」と心の中で叫んでしまう俺がいて落ち着かない。
因みに篠崎まおのSNSの一言メモは「常識の延長線上に勝利はない。」になってました。
悶えているとピロン、と通知音がなった。
「!?」
即座に画面を確認するとハートが回復したよ!のメッセージ。なんだよ、お前かよ。
やっぱりアレだろうか。ノリで連絡先聞いてはみたものの、連絡する気もないし、持て余してしまってブロ削でもしたんだろうか。
まぁ、人生そんなもんなんだろうな。昔も連絡先は交換したことはあるけど、学級連絡とかで仕方なくだったし。私的なもんなんて同じ男子でも連絡先なんて交換したことないしな。
人生ずーっと非モテで、そんな自分を変えてやろうと篠崎まおに告白したら、なんか方向性がぶっ飛んだこと言っちゃって気持ち悪がられてはぶられて。
そんな俺に女子が連絡先とか交換されたらそりゃ少しは期待するし嬉しいし、今後の展開なんて考えちゃうじゃん。
ピロン。
『ぱいせん、明日一日空いてますか?』
「?」
『夢太郎団子一緒に行かないですか?』
「…」
ん?なんかメッセージ来た。
八重桜こはるからメッセージが飛んできた。
ん?八重桜こはるから?ハート回復のお知らせじゃなくて?八重桜さんから???
取り敢えず頭が真っ白で何も考えられないし、どうしたらいいか分からんけど、それでもこの誘いには乗るべきだと全脳が叫んでいるのだけはなんとか把握出来た。
そんなの行くしかないだろ。
ピロン。
そんな時にまた通知。
『明日ね、朝9時に学校に集合で夢太郎団子行かない?』
?まお??え、あの篠崎まおさん???その人からメッセージが。明日の朝9時、夢太郎団子。夢太郎団子??
「なんでだよ!」
思わず大声が出てしまった。
にしてもなんで1週間以上も音沙汰無かったのに今日になって2人から、しかも同じタイミングでメッセージが来るんだよ、マジでなんでだよ。
しかも日にちも行き先も一緒。
八重桜こはるについて行っても篠崎まおと会うことになるかもしれないし、篠崎まおについて行っても八重桜こはるに会うかもしれない。
ただ、篠崎まおの場合は集合と言ってるため、他のメンバーにも送ってる可能性が高い。
それなら、例え篠崎まおがいても俺が行くメリットよりデメリットの方が大きい。それが例え篠崎まおからの誘いだったとしても。
「…」
よし取り敢えず篠崎まおは断るとして、八重桜さんを取るにしても、夢太郎団子で遭遇したらアウトだから他の案を。
「夢太郎団子以外…どこがある…?」
くそ、考えろ、考えろ俺。
あぁ、頭が真っ白でなんも考え付かない。
取り敢えず行き先の変更だけでも八重桜さんには伝えよう。
『明日空いてるんだけど』
団子ではないが美味しい店なら少しは知ってる。それに加えて女の子と行ってもおかしくない場所は、どこだ。
『…だけど?なんですかぱいせん』
ええいままよ!
『あの、梅森とかじゃダメかな』
決死の代替案はそばと丼物の店。
地元で醤油カツ丼なるものが有名なお店をチョイス。一瞬で思いつく店がここしか無かった。
ピロン
『分かりました。いいですよ』
ピロン
『醤油カツ丼なら昼前に出ないとですね』
オッケー貰った。なんでオッケーなのか分からないが、多分カツ丼が食べたかったのだろう。カツ丼以外もそばとかあるからね。
ちなみにこの梅森、昼頃になるとすぐに醤油カツ丼が売り切れるのだ。県外からも来る人がいるくらい人気で、お昼時にこの店の前を通ると駐車場が車で溢れかえってたりする。
ピロン
『ご飯食べたらお城登りませんか?』
なんだ積極的だぞこの子。ご飯だけで終わらせない、本当に"明日一日空いてますか"のパターンのやつだ。
お城か…。取り敢えずスタンプでまるってやつを送信。
お城とは、梅森から線路を越えて少し行った先にある、少し高いところに位置するお城のことで、ハイキングがてらに登る地元民も多く、この街が一望出来たりする絶景スポットでもある。
勿論街が一望できるくらいの高さがあるので、階段もとてつもなく長いのがちょっと懸念点ではあるけど。
『ありがとうございます、では明日の朝9時に学校で』
明日女の子と2人でデートに行きます。
これは今からでも遅くない高校人生巻き返しの予感。取り敢えずガッツポーズを3回と部屋を飛行機走りで周回。きーん。
「ふぅ」
それだけでキツい。もう息上がってきた。
これ明日お城登れるかなやばい、今日ちょっと運動しよう。
そして俺は運動するために外に出た。
明日の朝9時に学校で集合、なんか他に忘れてるようなことがあるけど問題無いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます