第三話 なりたる山ぎは

放課後、生徒指導室からの帰り。

俺はいつものように廊下をぶらぶらしていた。


「…はぁ」


結局あの一年生は先生に報告しており、俺は生活指導の先生から呆れられながら説教をされてしまったのだ。あいつ…なんてことを…。


なんとか明るみには出ないように地に頭を垂れ、必死に誤解を解いたので、周知の事実にはならなかったのだが、心に負った傷は少し深い。


あれ以来体育館近くは通らないように心がけてはいるが、それだと少し遠回りになってしまうため、散歩がウォーキングくらいの運動量になってしまう。しかも帰るときには体育館の裏を通ることになるので結局意味ないことに昨日気づいたばかりだ。


「ふぅ」


ちょっと疲れたので少し休んで帰ろう、と体育館裏の階段に腰掛ける。


帰宅部で休みの日もあまり外に出ない俺は体力がない。体育の授業はいつも角で目立たないようにしているし、クラスのやつもこっちに関わってこないため上手くサボれている。体力測定とかも学年で最下位争いだったし。


腰掛けて少しすると、人が来る気配がしたので俺は階段裏の影に隠れた。

ったくなんでこんなところに人が来るんだよ。


気配は2人。こっちに気づいた様子もなく話し始めた。


「どうしたの?」


この声は…篠崎さん?と誰だ…?


「休憩時間に呼んでわりぃ」


多分あれはクラスのNo.2男子、赤坂なんとかだった気がする。下の名前は思い出せないが取り敢えず、赤坂なんとかが篠崎さんを呼び出したのだろう。この流れだと十中八九あのイベントだろうね。


なんか見てはいけないようなものを見てるような気がするけど外から見る分には面白いからいいだろう。俺は誰にも言いふらしたりしないからな。まぁ、言う人もいないんだけどね。


「突然だけどさ、俺、まおの事好きになったわ」

「えっ」


体育館の壁にもたれ掛かりながら、篠崎さんを見据えて告白をする赤坂。


そうだろうと思った。

陽キャ御用達イベント、体育館裏の愛の告白ってやつだ。御用達かどうか知らんけど。


「だから俺と付き合って欲しい」


赤坂はNo.2とはいえ、No.1のやつにはない野性味?みたいなのが一部の女子の中でウケているらしい。男らしさってやつだろう多分。


篠崎さんは外面はお淑やかさを醸し出す清純派なのだが、腹黒い…という噂が流れている。


まぁ、ただの噂だから実際のところはどうか知らないし、例え本当に腹黒くても、篠崎さんはそんな性格すら霞むくらい可愛いのだ。


そのため、悪い噂が流れていても男子のファン層は厚い。それが更に気に食わない女子はいるみたいだが。


案外その気に食わない女子とやらが噂を流布してたりするのかも。女子って怖いね。


「…突然だね」


そんな篠崎さんも女の子なのだろう。突然すぎる野性味溢れる赤坂の告白に顔を赤らめている。


これは…落ちたのか?


赤坂の方を見ると「よっしゃこいつは貰ったぜ」みたいな顔をしている。

確かに誰もが見ても成功してそうな反応をしている篠崎さんだが。


「ごめんね、私今部活で忙しいから、恋愛とか考えてないの」


篠崎さんの口から出たのは否定の言葉。そして良いタイミングで女バスの休憩時間が終わったことを知らせる他の部員の声が篠崎さんを呼ぶ。


「まおー!練習再開するよー!」

「はーい!それじゃね、赤坂くん!」

「…っ、おう!部活頑張れよ!」


篠崎さんはそんな簡単には落ちなかった。


去っていく篠崎さんを呆然と見つめている赤坂。


赤坂までも負けた…。意外な反面俺はどこかざまぁみろと思っていた。だってあの篠崎さんだぜ?赤坂に靡くわけがねぇ。知らんけど。


赤坂は悔しそうに唇を噛みながら駐輪場へと駆けて行く。さらば青春、ってかまだあと二年あるか。


「ぱいせん」


にしても今日は面白いものを見た。

これだから放課後散歩はやめられない。


「ぱいせん」


そろそろ帰るか、そう思い俺が振り返ると。


「うぉっ!?」


あの一年生の子がいた。思わず素が出てしまった。


「こんにちは」

「お、おう、こんにちは」


一年生の子は真顔で俺の後ろに立っていた。

もしかしてじっと赤坂の告白を見届けている時からいたのだろうか。


「なんか面白いもの見れましたね」

「そ、そうだね」

「それでは」


それだけ言って一年生の子は生徒会室がある校舎の方へ歩いて行った。知らない先輩の告白シーンを見守るとは。意外と物好きな奴なのかもしれない。


ふと、一年生の方を向くと、何故か同じタイミングで一年生の子も振り返った。


「お気をつけて」


そして生徒会室がある校舎へ入って行った。

不思議な子だな、と思う。


放課後あの一年生の子が歩いているのは、怪しい奴がいないかとか不埒な行為に走る生徒とかを見回って注意しているのだろうか。


俺みたいな変なやつとか…。もしかして話しかけられるのは変なやつとして目をつけられてたりする…?


にしてもそういう見回りは一年生の女子一人に行かせるようなものではないと思うのだが。


「さて、家に帰るかな」


あの一年生の子が校舎へ入っていくのを見届け、俺は駐輪場へと向かった。

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