カウントダウン
司祭と娼婦は人目もはばからず戸外でいちゃついていたが、やがて男の方が真顔で虚空を見つめた。
すかさず、洞窟内に警報が鳴り響く。
「見つかった?!」
アデリーヌが遠隔手綱を握る。
「いえ。アリスは見つかるようなおバカじゃない!」
ソネットが友達を侮辱されたとばかりに憤る。
「じゃあ、何なの?」
「破邪星よ!」
二人の視線が乗り移ったように氷柱の画面がスクロールする。半分程度の月と血のような星が寄り添っている。
「師団本部、被害妄想の重病者を!」
ソネットは特殊能力者の支援を要請した。不倫の成就を後押しする破邪の願い。それを読み取る手段はないこともない。
被害妄想を病んだ者はそれらに対して卓越した感受性があり、諜報活動に対する貢献と引き換えに厚遇と尊敬を勝ち得ている。
「手一杯だ」
ガウス卿が突っぱねた。
「王国の安全を左右する事態でも?」
ソネットは怯まない。強い態度が反逆罪として罰せられないのは、彼女の実績がものを言っているのだろう。
「確かか?」
「はい。六回目の祈願です。祝言は近いかと」
「よし、判った」
師団長はあっさりと応援要請を承諾した。
「異教徒にもわかるように教えて」
門外漢のアデリーヌは置き去りにされまいと食い下がる。
「破邪星の下で七回契れば結ばれるのよ」、とうんざりした様子のソネット。
まもなくヒステリックな叫びが聞こえてきた。女性患者の訴えはソネットの懸念を裏付ける内容だった。
「よし、殺してしまえ!」
師団長が容赦ない命令を下す。血も涙もないとはこのことだ。一気に部屋が緊迫する。
「アリス。お願い!」
ソネットは手綱を引き締めた。氷柱に武装がリストアップされる。
両翼下に空対地魔導弾が二発。後ろ足に対地魔導滑空雷弾が二発。手数は多くない。
ピンと張り詰めた空気のなか、ソネットのカウントダウンが始まる。
バウチャーとマクガイヤは災厄の予兆を知らないまま、肌を重ねている。
と、その時だった。
「待って!」
アデリーヌがソネットに飛び掛かった。
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