ミルクピザの賭け

聖職者たるもの純潔を貫くべしという戒めは摂理に反するというのが、ハチソン教の教えだ。子々孫々まで誰が教えを伝えるのか。むしろはん栄を善導する手本となれ、と奨めている。

清濁あわせのむ穢れた宗教を崇拝するくらいなら無神論者を選ぶという人も少なくないが、おどろおどろしい禁則だらけの信仰よりは庶民的だと幅広い階層で支持を得ている。

「いいえ。マクガイヤという女。娼館の主よ。たぶん。近衛師団本部。照合をお願い」

ソネットが翼竜の眼を師団本部の魔導院に中継する。専門の士官がアカシックレコードを読みとって対象の素性を確定した。

氷柱に女の近況と経歴が洗いざらいリストアップされた。ソネットが呪文を唱えて情報を整理する。

「ふん、ふん、なるほど。司祭は娼婦の人脈を利用して何かを企んでいるみたいね」

「旦那さんが黙っていないでしょ。敵に回すと怖い方面のお方みたいだし」

アデリーヌが家系図を見て青ざめた。軍閥の有力者で近衛師団にコネクションが根付いている。

「それが何か? ハチソン経典に不倫という言葉はないわ。出会いの軌跡を妨げてはいけないと定めているもの」

ソネットは家系図の枝葉を追うよう、師団本部に要請した。思わぬ伏兵が潜んでいるかもしれない。

「娼婦ねぇ。あたしは宗教はサッパリ。で、マクガイヤが本命さんだという証拠は? だって、彼女……」

アデリーヌは女のビキニ姿を見逃さなかった。男性遍歴を重ねた証拠は小さな刺青の数で残す習慣がある。

「ふん、ふん、あー」

その数をソネットは素早く数え上げた。そして、潮時だと教えてくれた。

「バウチャーが捨てないとも限らない。ボロ雑巾のように絞られてさ」、とアデリーヌ。

「それは無いわあ。司祭さんには成し遂げたいことがあるもの」

小悪魔はきっぱりとに否定して見せた。

「じゃあ、わたしと賭けをしない?」

「ああら、ずいぶんと自信たっぷりじゃない。元エリートパイロットさン?」

「エリートは余計よ。でも、女の勘が声高にノーと言ってる」

アデリーヌは自信たっぷりにいった。

「いいわ。負けたらミルクピザを奢ってあげる」

小悪魔は水晶板にオーダーを刻んだ。それを人造の鳥が咥えて、師団酒保へ飛ぶ。

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