左斜め上への進化

「ご覧ください。ロケットの製造から組み立てまで船内で完結してしまうんです! エネルギーはすべて海から得ています。そうなんです。再生可能エネルギーです」

女子リポーターがカメラに向かってまくしたてる。その横で三次元プリンターがせっせと部品を出力している。

あらかじめプログラミングされた手順に従って寸分の狂いもなく、鏡面仕上げのような接合面をしあげていく。


女性はスカートを翻して船上に出た。

「こちらは既にプリントアウトされた機体です。我が国が誇るオミクロンロケット。世界最小サイズで超小型衛星を20個まで搭載できます」

発射台で秒読みが始まっている。そこへアシスタントディレクターが走ってきた。

リポーターと短い打合せをしたあと、中継を再開する。


「失礼しました。たったいま入ったニュースです。紛争の続いているハナゲスタン共和国が非常事態を宣言しました。現地ではワクチンが不足しており、世界保健機関は……」

女性リポーターが慌ただしく報じる、そのすぐ後ろからオミクロンロケットが羽ばたいた。


「あっ、だだいま発射された模様です」

カメラが青空に切り替わり、小さくなっていくロケットを追う。


「まもなく最終段を切り離し、衛星のアポジーモーターに点火します」


光点が小さくきらめいた。


その直後。世界が明滅した。



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