最果ての某国

テロが絶えない途上国、チクビスタン。砂をけたててジープが夕陽を追う。


「ここからハナゲスタンの国境はすぐだ。あすこに監視所が見えているだろう」

屈強な兵士が博士を護衛している。

「あの岩山の向こうに暮らす人々は本当に狂っているんですか?」

「俺を疑うのか? 言った通り、俺はチクビスタン大統領の代理だ。不敬罪で銃殺してやってもいいんだぞ。いま、ここでだ」

あかがね色の眉間に血管が浮き出ている。

「い、いえ。そんなつもりでは……」

青ざめた博士は視察の終了を願い出た。ふたたびタイヤが黄砂を巻き上げる。






チクビスタン共和国大統領宮殿。


「インフルエンザウイルスの遺伝子組み換えは完了しています。病原性ウイルスは自身のDNAを宿主の染色体に転写しウイルスの増殖を下請けさせます」

「そいつに任意のヒトゲノムを乗っければ敵の品種改良が出来るんだな?」

ハゲスタン大統領が身を乗り出してきた。

博士は満を持して述べた。

「そうです。私はこれを『健康的パンデミック』と名付けました」

彼は電子顕微鏡写真を示した。ハナゲスタン国民を操り人形に変えてしまうウイルスがあぶくのように蔓延している。

吊り目の女がミサイルの断面図を出してきた。

「突然変異を後押しする放射線も定格をクリアしました」

彼女は国防省のトップであるらしく、新型弾頭開発計画の陣頭指揮を執っていた。

「よし、これを『平和的核爆発』と命名する」

大統領が悦に入っていると空襲警報が鳴り響いた。

「お急ぎください。帝国主義勢力の爆撃機が領空侵犯しました」

警備兵が脱出を促す。

「構わぬ。奴らの痴態を見てみようではないか。そろそろ潜伏期間が終わるころだ。そうだな?」

ケガフォシー・ハゲスタンはどっかりと椅子に腰をおろし、博士から壁面スクリーンに視線を移した。

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