ただ今日も生きている

仕事から帰り真っ暗な部屋に明かりをつけ、俺はパソコンを起動する。

好きな配信者の放送がもう始まっていた。

ネクタイを緩め買ってきた弁当を開封し、ヘッドホンを装着する。


俺の癒やしのasmrの時間だ。


上司に小言を貰いながら、今週五度目の残業を終えた俺の脳が少しづつ弛緩している気がする。


「はぁ」


そろそろ三十路なのに、仕事がうまくできず残業続き。

恋人もいなければ友達と飲みに行くこともない。

ただただ居心地の悪い上司や同期との飲み会が時たまあり、やむを得ずに参加し、いつも後悔するというしょうもない時間の繰り返し。


「こんなもんなのかね人生」


食事の手を止め、ぼーっと宙を見つめる。


「癒やしてくれよ、スパチャするからさ」


「あ、ヤスタカさんスパチャありがとーっ。『残業続きで疲れてます。いつも配信で癒やされてます。今日もありがとう。』えーマナの方こそありがとだよー。ヤスタカさんマナが配信初めてた当初からコメントしてくれるもんね。少しの間だけどゆっくりしてってね。マナがついてるから心も体も楽にしてね」


「ハハハッ」


乾いた笑いが溢れてしまった。


コメントを読んでもらうためにわざわざスパチャをした自分。

チャンネル登録者数が増えてきたから、忘れられてしまったんじゃないかと少し怖かった自分。

マナちゃんに認識されていて少し舞い上がっちゃう自分。

なにより今日の配信を見てまた少し生きる活力を貰うであろう自分。


「ほんっと、なんか滑稽だなあ」


もうちょっと素直に現実逃避ができれば、惨めな気持ちにならなくて済むのだが。


「こんなもんだよな俺」




テーマ【asmr】

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