先立つ人


見事な快晴。煌々と僕たちを照らす太陽、しかしあまり熱は感じられない。

北東に伸びる街路樹の影。

葉っぱが風に揺られ、その影はなんだかあやしい雰囲気がする。


「あれ、モザイクに見えね?」

「んー、大量の虫が蠢いてるように見える」

「うわ、そう言われるとなんか気持ち悪く見えてきた」

「ホラゲーとかで大量の虫が出てきて、画面埋め尽くすやつな」

「せっかくいい天気で和んでんだからやめろや」

「ごめんごめん。……実はあれ全部セミの集合体なんだよ」

「だからやめろって!」


タカヤがこっちを見て目を見開き、大きく口を開けて声を張り上げる。

僕はそのタカヤの顔が面白くてつい笑ってしまう。


二人の隙間を緑の葉が舞う、風薫る涼やかな午後。

僕には涼しいとは思えないけど。


「お前なぁ、性格悪くなってんじゃねえか」

「元から僕そんな性格よくないよ」

「おお知ってるぞ。俺が彼女に振られた時、振られ祝いだとか言ってノンアルビール買って頭にぶっかけてきやがったしな」

「だってタカヤずーっと泣きべそ書いてて正直うざかったんだもん」

「おまっ、純情な高校生の初恋だったんだぞ!打たれ弱いに決まってんだろ!」


ベンチに座り、足をドタドタ地面に打ちつけながら抗議する姿を見てやっぱり僕は笑ってしまう。


さっきよりも街路樹の影が潰れて不気味に伸びている。


「……そろそろ行かなきゃ」

「んあ?もう行くのか」

「うん、楽しい時間はあっという間だよ」

「とりまビール開けて乾杯しようぜ」


タカヤに買ってもらってから時間がたち、ぬるくなった缶ビールを同時に開け一口。


「「うめぇぇ」」


息がピッタリ揃い、間抜けな表情で顔を合わせ笑い合う。


太陽に照らされてできた街路樹の影は、僕には作り物のように見えた。






テーマ【影】

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