その後19 感謝の日

郵便局のお昼休み。

今日も今日とておばちゃんたちとお昼ゴハン。そして、今日の話題は。


「もうすぐ感謝の日ねえ」


「ウチの子たち、親に隠れてコソコソ計画してるようだわ」


「イズルちゃんは、感謝の日に何するの?」


感謝の日とはなんぞや…。

親に隠れてコソコソ計画?だけど、おばちゃんたちはニコニコしてる。父の日とか母の日のようなものかな?


「ええと、まだ考え中です」


めちゃくちゃ悩んでる仕草で返事してみた。そしたらおばちゃんたちは「何したって喜んでもらえるわよ」って励ましてくれた。


感謝の日についての情報を得なければなるまい。

おっちゃんには聞かないほうがよさそうだ。俺の想像通りだったら、俺はおっちゃんにコソコソして計画立てなきゃいけない。


誰に聞こうかな。

図書館のお姉さんとかパン屋のお兄さんに聞いたら、俺のことを『感謝の日』を知らない変な子って思うかも。

だったらそうだ。番所の兄ちゃんだな。


思い立ったが吉日、という言葉もあるので、仕事終わりに早速番所へ行ってみた。

ひょこっと番所を覗くと、いたいた。兄ちゃん。


「兄ちゃん、こんにちは。聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」


兄ちゃんは書類書きの手を止めて、おいでおいでと手招き。


「イズルくん、こんにちは。もちろんいいよ。座って座って」


あんまり長く兄ちゃんの仕事の邪魔をしてはいけないので、俺は早速聞いてみた。


「兄ちゃん、『感謝の日』っていつ?何する日?」


兄ちゃんの顔が曇る。俺のこと、カワイソウって思ってるんだろうな…。

そんな俺の視線を敏感に感じ取った兄ちゃんは、しまったって顔してそんで明るく笑った。作り笑いってバレてるよ。だけどありがとう。


「感謝の日は、お父さんとお母さんに感謝する日だよ」


予想が当たった。父の日と母の日みたいなやつだ。


「ほー。じゃあ俺はおっちゃんに感謝すればいいんだよね?」


そう首をかしげると、兄ちゃんによしよしされた。エライねって言われてるみたい。

そんで、兄ちゃんに教えてもらった。感謝の日に、子どもたちは親の代わりに掃除したり洗濯したり料理したりするんだって。へー。

でも俺はわりと掃除してるし、洗濯は洗濯屋さんだし、料理は禁止されてるし。


何しようかな。


兄ちゃんに別れを告げ、俺はウーンと悩みながら家に帰った。



その日の夜。

ベットに入ったあと、おっちゃんに聞いてみた。


「おっちゃん、おっちゃんは欲しいものある?」


感謝の気持ちを伝えるために、プレゼントしようと思いついたのだ。だから聞いてみたんだけど、おっちゃんの返事はハッキリしない。


「ん?そうだな…別に…」


それからしばらく考えてるようだったけど、おっちゃんから何も出てこなかった。天井見上げてちょっとだけ溜め息。


「おっちゃん、欲しい物は無いのかあ…」


欲しい物がないとなると、感謝の日はどうしよう。

困ったなあ。どうやって感謝の気持ちを伝えればいいんだろ。と、思ったけど、おっちゃんが慌てた感じで俺の腕をポンポンした。


「いや、そうだ。思い出した。菓子を食べたいな。美味いのを」


意外だ。お菓子食べたいんだ。

「ふーん、お菓子かー」って、俺は気のない返事してもそもそ布団の中へ。

そして目を閉じたけど、心の中は感謝の日のことでいっぱい。

一番おいしいお菓子をおっちゃんにプレゼントしたい。俺が今まで食べた中で一番おいしいお菓子は、隊長さんのお屋敷で食べたクッキーだ。

あれはとってもおいしかった。どこに売ってるのかな。

きっと、高級なお店だよね。高いクッキーだよね。


ちょっと危険だけど、隊長さんに聞きに行ってみよう。感謝の日にあんなにおいしいクッキープレゼントしたら、おっちゃんビックリするだろうな。

ふふふ。ワクワクしてきた。


よし!おっちゃんに計画がバレないように、コソコソしようっと!

布団の中で、俺はぐっと拳を握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る