その後18 闘技会④

「おっちゃん、待っててくれたの?」


そう言って門のところにいるおっちゃんに駆け寄ったけど、おっちゃんは怖い顔してた。


「一緒だったのか?何か言われなかったか?」


おっちゃんが誰のことを言ってるのか…。副隊長さんだ。振り返ると、副隊長さんはゆっくりこっちへ歩いてきてた。


「偶然会って、なんか一緒に来る感じになった。怖くなかったよ」


おっちゃんは溜め息吐いて、俺の頭をわしわし撫でる。そして、ゆっくり堂々と歩いてきた副隊長さんに敬礼した。


「第一隊副隊長殿、ようこそいらっしゃいました。今、案内を呼びます」


おっちゃんはお仕事モードに突入。かっこいいね。

おっちゃんが学生さんを呼ぶと、その学生さんがすぐに副隊長を案内した。学生さん、カッチコチに緊張してた。副隊長さんってスゴイ人なのかな。じゃあ、隊長さんはもっとスゴイ人?


副隊長さんがどこかに行くのを見送ったあとで、おっちゃんがまた俺の頭をわしわし。


「坊主の見学席はあっちだ。連れてってやろう」


おっちゃんがいつもみたいに手を伸ばすけど、俺はちょっとためらう。そんな様子におっちゃんも気付いて、不思議そうなしかめつら。だから俺は理由を述べる。


「今のおっちゃんはお仕事中のおっちゃんでしょ?お仕事中のおっちゃんは学生さんたちの教官だから、俺と手を繋いでもいいのかな…」


おっちゃんは一瞬真顔になって、そして、ふはっと笑った。そんで俺の手を無理やり掴んだ。


「坊主はそんなこと考えなくていいんだ。おっちゃんはいつもおっちゃんなんだから」


俺は素直に納得。おっちゃんと手を繋いで、敷地をずんずん歩いていく。すると、大きな舞台があった。闘技の舞台。


そこを囲むように、階段状に見学席が設置してあった。埋まってるエリアと空いてるエリアとくっきり分かれてた。何でだろって思ったら、おっちゃんが説明してくれた。


「あっち側は試合も出ないし運営の役割も割り振られてない学生が応援に来てるんだ。坊主はこっちに座ってろ」


なるほど。席が埋まってるのは、あれは学生さんなんだ。こっち側の外からのお客さんの席は、まだ結構空いてる。


「それと、おっちゃんはあの天幕のとこにいるからな。…ひとりで大丈夫か?」


おっちゃんが指差した方向は、学校の運動会のようなテントがあった。あそこにおっちゃんいるのか。なんだか安心。


「俺、ひとりで大丈夫だよ」


「先生には話してあるから、闘技会が終わったら医務室に行っててくれ。そこで待ち合わせだ。場所は分かるか?」


「分かるよ。何回も来たからね」


おっちゃんはうんうん頷いて、俺の頭をくしゃくしゃ。


「もうじき始まる。お行儀よくしてるんだぞ」


そう言って、おっちゃんは仕事に戻って行った。ちょっとだけ寂しいな。ちょっとだけね。


ざわざわする会場。俺の近くの席も埋まってきた。


「あれは第一隊の副隊長じゃないか?」


「本当だ」


近くに座っている事情通らしき人たちの会話を盗み聞き。副隊長さんや、他の隊の人と思しき人たち。舞台近くの観覧席にいた。


「第一隊はエリートばっかり集めた高慢ちきって聞くけどな。こっちの学校に何の用があるんだか」


高慢ちきじゃないよ。副隊長さんは親切だし、隊長さんもヘンな人だけどいい人だよ。


「まあ、第一隊が王都守護の要であるのは間違いないけどな」


そうなんだ。そんなにスゴイんだ。じゃあ、そんな第一隊をまとめてる隊長さんはハイパースゴイ人なのかな。

と、隊長さんのことをちょっと考えてると、ガーンゴーンと鐘の音が鳴った。


「これより、闘技会本選を開始します!」


司会役の学生さんの大きい声が響くと、会場内から大きな拍手。おお。とうとう始まる!



闘技会の本選。出場選手は8人で、トーナメント方式。


最初の試合。

俺は素人なので、選手がそれぞれ違う武器を持ってるのがまず謎だった。一人は槍。一人はグローブみたいなナックルみたいな。てっきり剣かなって思い込んでた。騎士と言えば剣でしょ、剣。


そんな俺の心の中の疑問に答えるように、近くに座ってる事情通の人が語り出した。


「各々得意な武器を使うルールだが…。槍と拳じゃあ、槍が有利だな」


へえ。好きな武器を使っていいんだ。ルエンくんは何を使うのかな。


第一試合は、槍の選手が押してるように見えた。だけど一瞬の隙をついて、拳の選手が距離を詰めた。体に一発の拳が当たったかと思うと、槍の選手は吹っ飛んだ。


勝負が決まった瞬間、大歓声。

俺も興奮する。おおおー!って。闘いはちょっと怖いけど、でもワクワクする。


そんな感じで何試合かあったあと、ルエンくんの初戦。ルエンくんは俺がイメージしたとおりの剣を腰に差していた。カッコいいな。


試合開始位置につくルエンくんに、見学の学生さんたちから応援が飛ぶ。他の選手にも応援あったけど、ルエンくんの応援は今までで一番大きい。ルエンくん、人気者なんだな。


「ルエンくん、頑張れー!」


俺も大きい声を出してみた。届いたかな。今のルエンくん、いつものニコニコ表情と違ってものすごく真剣でキリッとしてる。


審判の合図で試合が始まった。相手の選手も剣で、どんな試合になるんだろう。さっきまでうるさいくらいだった声援もぴたりと止み、みんな静かに試合を見守る。


先に動いたのは、相手の選手。ルエンくんはその剣先を払って、そのまま相手の首先に剣を突きつける。


「勝負あり!」


審判が宣言すると、また会場が湧いた。

おおー。ドキドキしたー。舞台を下りるルエンくんが、俺のほうを見て手を振った。俺も手を振り返す。


その後の試合も、ルエンくんはどんどん勝ち上がって決勝進出。

このまま優勝するかな。スカウトされるかな。

自分のことじゃないのに、めちゃくちゃ緊張してきた。


ルエンくんの相手は、最初の試合に出てきた拳の選手だった。


拳の選手には悪いけど、ルエンくんが優勝するよ。ソワソワドキドキで瞬きもせず試合を見る。

じりじりと距離を取りながら、お互いに攻めるチャンスを狙ってる。

剣を構えたルエンくんが、一歩足を出すと同時に剣を振りかざした。そしたら、拳の選手がひゅっと後ずさる。ルエンくんの剣が空中を切るや否や、拳の選手がくるりと舞った。

そんな風に見えた。

足を上げて、そのままルエンくんの胸に蹴りを入れた。


ああー!ルエンくんー!


声にならない叫びを上げる。


ルエンくんは立ち上がろうとするけど、剣も吹っ飛んじゃってるしフラフラしてるし。審判が「勝負あり!」って宣言してしまった。


他の学生さんに抱えられて退場していくルエンくんに、俺は拍手を送る。ルエンくん頑張ったよ。負けちゃったけど、カッコよかったよ。


そして、優勝した選手を称える式典のあと。会場の人たちはまだ立ち上がらない。


「さて、今年は模範試合はあるかな」


事情通の人の話を聞いてると、どうやら騎士様と模範試合をすることがイコールスカウトらしい。だからみんなまだ帰らないのか。


負けちゃったけど、ルエンくんもスカウトの目がなくなったわけじゃないよね。再びのソワソワ。


「これより、模範試合を始めます!」


司会の人のアナウンスに、会場がざわめく。ルエンくん…かな!?ルエンくん、決勝では負けちゃったけど、いい試合してたよね。

という期待をしたけど、違った。


優勝した拳の選手と、相手は第三隊の隊長さんという人だった。ちぇー。ルエンくんだって強いのにー。


「第三隊か…。あそこは接近戦専門だからな。まあスカウトも納得だな」


事情通の人、スゴイな。何でも知ってるよ、この人。


模範試合はすぐ終わらなかった。

だけどいい勝負をしてるってわけではなく、俺から見ても「第三隊の隊長さんが選手を試してる」って感じだった。結果はもちろん、第三隊の隊長さんの勝利。


拳の選手、強かったけど…。

騎士って、もっともっと強いんだ。見学席に座ってる副隊長さんをチラッと見る。副隊長さんもものすごい強いのかな…。


模範試合も終わって、見学の人たちもボチボチ立ち上がって帰る準備。俺もおっちゃんとの待ち合わせ場所に行こうと、腰を上げかけた。


そのとき。


司会役の人を押しのける人物。


「ちょっとまったああああ!!!!」


会場全体に向かって、大声を上げるルエンくんがそこにいた。

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