その後18 闘技会③
闘技会の朝。
「今日はこれを着ていくんだぞ」
おっちゃんに渡された服を広げてみる。
「わあ!襟のついたシャツ!」
俺の驚きように、おっちゃんは少しだけ笑った。
「ジャケットもあるから、あれを着ていくんだ。闘技会は学校行事だけど、名誉をかけての戦いだから見学するときも正装するんだ」
おっちゃん、いつの間にジャケットとシャツを用意したんだろう。
「そうなんだ。じゃあこれ着てお行儀よく見学するね」
シャツを広げて眺める。ただの白いシャツだけど、ほんのり大人っぽい。
「それじゃあ、おっちゃんは先に行くから。遅れないようにな」
俺の頭をわしゃわしゃ撫でて、おっちゃんは家を出た。運営の仕事ってどんなことするんだろ。教官のお仕事大変だな。
家を出る時間までソワソワして過ごした。
新聞読んでもソワソワ。ひとりでカードゲームしててもソワソワ。ソワソワするのに疲れた頃、ちょっと早いけど出かける準備。
「さて。そろそろ行きますか」
襟のついたシャツに袖を通して、さらにはジャケットも羽織る。なんだか制服みたい。
いってきまーすと言いながら家の鍵をかける。
「ルエンくん、活躍するかなあ」
独り言ぶつぶつ言いながら歩いてく。大通り沿いに歩いて、学校まではまだもう少し。そんなところで一台の馬車が、てくてく歩いてる俺を追い越した。
馬車だ。かっこいいなあ。
なんて思ってたら、馬車が止まってドアが開いた。
「イズルくん?」
中から顔を覗かせたのは…。
「副隊長さん!」
隊長さんのお友達の副隊長さんだ。副隊長さんは馬車から降りて、俺のとこに駆け寄ってきた。白いコート着てる。かっこいいな。でも俺も今日はカッコいい服着てるよ。
「イズルくん、おでかけ?その格好、もしかして闘技会?友達が出る…とかかな?」
質問してくる副隊長さんへの返事を考える。
ルエンくんは友達だろうか。『知り合い』よりは親しいけど、『友達』かな。難しい人間関係だけど、副隊長さんに説明することじゃないのでトモダチで押し通す。
「はい。そうです。トモダチ…の応援に。副隊長さんも行くんですか?」
「ああ。仕事の一環で見学に行くんだ。よかったら、乗って行かない?」
副隊長さんはそう言って馬車を指差した。
馬車に乗ってみたいけど…。副隊長さんは親切な人だけど、隊長さんの友達だから油断は禁物。
「…ううん。いいです。歩いて行きます」
副隊長さんは困った笑顔を貼りつけてしまった。
うーんと唸って、足早に馬車に戻ったかと思うと、馭者の人に何かを言ってまた戻って来た。
「一緒に行くよ。せっかくだからね」
何がせっかくなんだろうか。分からないけど、断るのもアレなので一緒に学校へ向かう。
何か話しかけてみようと思って、とりあえず聞いてみた。俺たちの共通の話題。
「隊長さんは一緒じゃないんですか?」
副隊長さんはゴホンと咳払い。
「隊長は、幹部養成校のほうの闘技会の見学に行ったんだ」
ふーん。そっちの学校でも闘技会があるんだ。同じ日なのか。そういうものなのかな。とにかく、今日は隊長さんいないんだな。少し安心。
おっちゃんとルエンくんと隊長さんが顔を合わせたらどうなるんだろう。おっちゃんの血管が切れるかもしれないよ。
怒ってるおっちゃんを想像してふふって心の中で少し笑った。
「イズルくん、今日はカッコイイ服を着てるね」
「うん。おっちゃんが買ってくれた服!」
褒められたことが嬉しくて、思わずため口になってしまった。けど、副隊長さんは気にする様子もなくニコニコ。
「そう、よかったね。そういえば、友達が出るの?闘技会」
友達かどうか微妙な関係だけど…頷く。
「友達…うん、トモダチ。スカウトされたらいいなあって。もしかして、副隊長さんはスカウトしに行くんですか?」
ルエンくんの手紙にあったスカウト。副隊長さんのお仕事?興味津々で聞いてみたけど、副隊長さんはあんまりいい反応じゃなかった。
「見学に行く目的は、まあそうだね。だけど、必ずスカウトするとも限らないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。絶対欲しいって思わせる学生って、本当に稀なんだ。闘技会は歴史も伝統もあるけど、それですべてが分かるわけじゃないから」
首を傾げる。闘技会で活躍した人をスカウトするんじゃないのかな?
「予選を通過できなくても、優秀な学生はいる。他の能力に秀でた人材も必要だからね」
ははん。分かったぞ。
騎士団といっても、仕事は戦うだけじゃない。事務方とか、きっと他にもいろいろ仕事があって、そういう仕事に向いてる人も必要なんだろうな。
「難しい話だったかな?」
副隊長さんは困った顔になっちゃったけど、俺は逆。ぐっと顔に力を入れて返事。
「ううん。大丈夫です。騎士の仕事って、戦い以外にもいろいろあるんですよね。戦うのが強い人だけが必要なんじゃないんですね」
俺の答えに、副隊長さんは朗らかな表情。
「そうそう、飲み込みが早いね。騎士の仕事に興味がある?よかったら今度ウチの隊長に…」
って副隊長さんが何か話してる途中だったけど、それを遮って俺は大きい声。
「あっ、おっちゃんだ!」
なんだかんだ話してたら、もう学校の門の近くだった。そこでおっちゃんが俺に向かって手を振ってた。
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