その後18 闘技会②

※副隊長視点


第一隊、隊長の執務室。

今度開催される養成校での闘技会の案内状を眺めて、リシュは溜め息交じりに俺に言った。


「やはり、交代しないか?」


ここは詰所で執務室で、俺たちは制服を着ている。しかし、俺は上司ではなくて幼馴染としてリシュに言い聞かせた。


「しない。リシュが一般の闘技会に行ったら、あのルエンとかいう学生を模範試合の相手に指名しかねないからな」


イズルくんと出かけていた相手。

もちろんリシュはその相手を調べ上げ、その調査報告書を取り上げて俺も目を通した。そしてその学生が、闘技会の本選に出るという。


「私がそんなことをするとでも?」


ふふんと不敵に笑うリシュに、俺は低い声で答える。


「…しかねない。私怨で指名なんて、とんでもないことだ。模範試合の指名が、何を意味するか分かってるだろう?」


闘技会終了後に行われる模範試合。目に留まった学生がいれば、指名して模範試合をする。それはつまり、『ウチの隊に入ってほしい』というスカウトだ。


スカウトする気もなく、ただ恨みだか怒りだかをぶつけてボコボコにするために模範試合の指名するなんて。

考えただけでも恐ろしい。隊のメンツに関わる。隊全体のプライドの問題だ。


それをリシュも分かっているはずなのに、なぜか不満げだ。


「闇討ちを我慢したというのに…」


「それも意味分からんからな。とにかく、その日はリシュは幹部養成校の闘技会に行ってくれ。俺が一般養成校の闘技会に行くから」


リシュは案内状を手から放し、大きく溜め息。


「つまらんな。せっかくの機会だというのに。なぜ同じ日に開催されるんだ」


スカウトの件もあるので、基本的にはどの隊も隊長か副隊長が闘技会の見学に出向く。さすがにそこはリシュも分かっていて、他の者を見学に行かせようとはしない。


「ほら、やっぱり何かよくないことを考えてただろ。ていうか、幹部養成校の闘技会では見るべきものがあるはずだ。俺たちもそこで闘ったじゃないか」


隊長としての役目を思い出させるために、学生だった頃の自分たちの思い出話に水を向ける。すると、リシュは感慨深そうに頷いた。


「そうだったな。あれはなかなか…そうだな。お前との決勝戦、覚えている。私が優勝で、お前は二位だった」


同じ地区に屋敷を構えているものの、俺とリシュでは家の格が違う。

主役はいつもリシュ。誰よりも抜きんでているリシュ。それをぶっ壊すつもりで闘ったが、結局は負けた。


「順位は俺も覚えてるから、いちいち言わなくていいよ」


自分から話を向けたのだが、思いのほか苦い気持ちが蘇った。


「まあ、とにかく。お前の言うことは一理ある。一般養成校のほうは、お前に任せる。模範試合もお前に任せる」


任せる、とはどの意味だろうか。

まさか俺に『あの学生をボコボコにすることを任せる』と言ってるんじゃないだろうな。ピクリと眉を動かすと、リシュはニッと笑って椅子に深く腰掛けた。


「そうではない。真面目な話だ。お前の判断で模範試合をしてもいいと言っている。

隊に有益になりそうな学生がいれば、スカウトしてこい」


隊長としての言葉だと理解した俺は、それにふさわしい返事をする。


「承知しました」


隊に入る人間を俺自身の判断で決める。責任重大だ。


今は思っている。

俺は主役になる必要はない。リシュが、隊長が信頼を置く人間でいることが大事なのだ。

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