その後16 おしり事件
ある日のこと。
何だかおしりのほっぺが痒くて、シャワー浴びるときに俺のおしりはどうなってんのと触ってみた。そしたら、ブツブツしてる肌触り…。ひええ。なんかできてる。
「おっちゃん…おっちゃん…」
服を着ないでパンツも履かないで、腰にタオルを巻いた状態で部屋に戻る。
「どうした?」
「なんか俺のおしりに変なのできてるんだけど。ちょっと見てみて」
俺のお願いを、おっちゃんはイヤな顔しないで聞いてくれた。ぺろんとタオルをめくって、俺のおしりを見てくれた。
「赤いブツブツができてるな…。痒いか?」
赤いブツブツってそんな。虫刺されかな。なんだろな。
「かゆい。でも我慢できるよ」
「そうか。とりあえず痒み止めの軟膏でも塗っとくか。明日は坊主は休みだろう?一緒に学校行って、医者に診てもらおうか」
大げさだなあと思ったけど…。俺のおしりが大惨事になったら大変なので、お医者さんに診てもらったほうがいいよね。
俺はウンと力強く頷いた。
次の日。
おしりには相変わらず赤いブツブツがあったので、おっちゃんと手を繋いで学校へ。まだ始業時間前だけど、ジョギングしてる学生さんや忙しそうにしてる学生さんもいた。
俺とおっちゃんに気付いたら、みんな「えっ…?アシオ教官…?」って感じで珍しい物を見たって表情になってた。おっちゃん、ここでは鬼教官なんだよね。
「先生、いるか?」
医務室のドアを開けると、先生がのんびりとお茶を飲んでた。まだ授業が始まる前だから、先生も勤務時間前なのかも。
「どうしました?アシオ教官。おや、イズルくんも一緒に…今日はどうしたんだい?」
「すまんが、先生。坊主の尻に湿疹ができて、痒いって言ってるんだ。診てもらえないか?」
お尻ごときで…と思われたら恥ずかしいなと少し思ったけど、先生は頼りがいのある感じで頷いた。
「お尻?ああ、もちろん診ますよ。イズルくん、そこにうつ伏せになってくれるかな。教官、ドアの外に診察中の札を出しておいてください」
診察台に上がって、俺は俎板の鯉のようにうつ伏せに。「ズボン下げるよ」と先生が言うと、俺のおしりがヒヤリとした空気に触れる。おしりまるだし。
「うーん。かぶれかな?新しい下着を履いたとか、そういうことはないですか?」
「そういえば、この前、新しい下着を買ったんだ」
「素材か染料か、どっちかが原因だと思いますよ。その下着は履かないで、しばらく塗り薬を塗ってれば治るでしょう」
よかった。俺のおしり、大丈夫そうだ。
安心した、その時だった。医務室のドアが、ガラガラッ!と勢いよく開いた。
「教官がイズルくんを連れてきたって目撃情報が…!」
この声はルエンくん。
ドアから診察台は丸見え。そう、俺のおしりも丸見えだろう。
先生がサッとバスタオルみたいなのを俺のおしりにかぶせてくれたのと同時に、窓ガラスが粉々になりそうなくらいのおっちゃんの怒声が響いた。
「誰の許可を得てドアを開けてんだコラア!!!!」
「ぐえっ。苦しい!絞まってます!見てません!イズルくんのかわいいお尻なんて見てません!」
そのあとは医務室のドアを出て、廊下で騒いでた。
「ていうか、何でイズルくんがお尻まるだしだったんですか?大人二人が何でそれを見てるんですか?」
「うるせえ!さっさと演習の準備を始めろ!」
おっちゃん、言葉遣いが乱暴になってる。俺はちょっとだけ嬉しい。おっちゃんが俺のことで怒ってるから。
フフッて笑いそうなのを我慢して、診察台から下りる。ズボンもキチンとおへそまで上げる。そしたら先生が申し訳なさそうに俺の背中をポンポンした。
「ごめんね。診察中の札を出したから大丈夫だろ思ったんだ。まさか勝手に開けられるとは」
おしり見られちゃった…。
普通の、ただの男友達だったら恥ずかしくもなんともないけど、ルエンくんは俺のこと好きとか言ってくれてるからなあ。少し気まずい。
しばらく廊下がうるさかったけど、ゴスって音が聞こえたあと静かになった。で、ガラガラとドアが開いて、おっちゃんが顔を覗かせた。
「先生、昼まで坊主を預かっといてくれ。昼休みに連れて帰るから。坊主、大人しくしてるんだぞ」
再びドアが閉められ、何かが重そうなものがズルズルと引きずられる音が聞こえた。
ルエンくんこそ、医務室が必要なんじゃないかってちょっとだけ思った。
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