その後14 じぶんのこと後編

家に帰りついた頃には、なんとか涙は止まった。複雑な気持ちは消えないけど。


「膝か?ここ痛いか?」


俺のズボンまくりあげて、おっちゃんが俺の膝をこんこんする。


「痛いけど、そんなに痛くないよ」


へぶへぶと弱い声で返事すると、おっちゃんは俺の膝に冷たいタオルを当ててくれた。


「冷やしておけば大丈夫だろう。痛みが強くなるようだったら、医者に行こう」


お医者さんか…。それはちょっとオオゴトになってしまう。痛いのはそこまでじゃないんだ。それに、今日は休日だ。


「お医者さん、今日は休みじゃないの?寝てるかもよ?」


俺がそう言うと、おっちゃんはニヤッと笑った。


「坊主のためなら、たたき起こしてやるさ」


おっちゃん、俺のためならクレーマーにもなるんだ。俺のため…。おっちゃん、優しいなあ。


お肉たくさん入った野菜炒めを食べた後、あんまり元気がないので寝ることにした。

おっちゃんは元気のない俺に気付いてたと思うけど、何にも言わないで「じゃあ、おっちゃんももう寝ようかな」って一緒に寝てくれた。まだ早い時間なのに、俺に付き合ってくれた。


ベッドの中。おっちゃんの隣で俺は考える。

今まで深く考えてなかったけど、どうして俺はこの世界に来たんだろう?ただの神隠し?うん?神隠しに“ただの”ってある?うーん。神隠しに意味はあるのか、意味はないのか。

調べてみよう。調べる価値はあるよね。きっと。


ということで次の日。


何か察せられたら気まずいので、おっちゃんには聞かない。こういうときは図書館に限る。普段から図書館通いしててよかった。

郵便局からの帰り、いつものように図書館へ。その行動はいつも通りなんだけど、心の中はドキドキ。何かが分かるかなってドキドキと、悪いことするような気持ちのドキドキ。半分ずつ。


そして、図書館に来た。来たものの、俺は困った。えと。どうやって調べればいいんだろうか。

“他の世界から来た人の話”っていうのは、“本当にあった不思議な話”って感じかな?オカルトかな?


オカルトの本が並ぶ棚を見てみる。一冊ずつ手に取ってみたけど、俺が知りたい話は載ってない。お化けの話がほとんどだった。夜寝られなくなっちゃう…。


そんなこんなしてたら、だんだん日が傾いてきた。そこに図書館のお姉さんが本の整理するためだろうか、ワゴンを押して現れた。


「あら、イズルくん、まだいたの?帰らなくて大丈夫?」


「もうすぐ帰るけど…。探してる本が無いんだ」


疲れ切った俺は、お姉さんに助けを求めた。かくかくしかじか。違う世界から来た人の話が載ってる本ってある?って。


「調和者様の話?それなら歴史書のコーナーよ。イズルくん向けなら、こっちね」


調和者様とはなんぞや…。


お姉さんが案内してくれたのは、子ども向けの参考書とかある棚だった。

「これなんかいいんじゃないかな」とお姉さんが選んでくれた本。それを読んでみる。


調和者様とは…。

世界のバランスが崩れそうだとか精霊たちの力が弱まったとか、そんなときに神様が世界の歪みを直すために力を使う。百年に一度あるかないか。

その時、世界と世界が重なって、違う世界の人がこの世界に来てしまう。

その人は調和者と呼ばれ、その人自身に特別な力は無いけど、この世界の調和のためにこの世界に来てしまったので、丁重に扱われる。


「ほうほう」


過去の調和者は、老若男女いろいろ。現れる場所もいろいろ。記録の残ってる限りでは、皆この世界で人生を送ったようだ。王様のお后様になった人もいるって。


「…ほうほう」


俺はパタンと本を閉じた。知りたいことはだいたい分かったので、その本を借りないで帰る。


図書館を出て、家までの帰り道。夕日を見てひとりごと。


「どうしてこの世界の人は、その人が調和者って分かるんだろう?自分で騒ぐからかな?」


俺もおっちゃんに見つけてもらわなかったら騒いでたかな。ここはどこ!って喚いてたかも。

まあ、俺が何も言わなければバレないよね。バレたら面倒くさそう。

とにかく、本によると、歴代の調和者はこの世界にずっといたってことが分かった。

俺もそうなんだろう。ずっとこの世界にいるんだろう。ずっと…。


てくてく歩く帰り道。もうすぐお家。そこでおっちゃんの大声が聞こえた。


「坊主!」


おっちゃんだ。おっちゃんが慌てた様子で家から出てくるのが見えた。


「おっちゃん、どうしたの?」


たたっとおっちゃんの元に駆け寄る。今日はこけなかった。


「早く仕事が終わって家に帰ったら坊主がいなかったから…」


俺の姿が見えないだけで、そんなに心配してくれるんだ。なんだか心があったかくなる。


「ごめんね。今日は図書館で本をたくさん読んでたんだ。お化けの本」


「お化け?そんなの読んだら、夜寝られなくなるぞ」


おっちゃんの手をぎゅっと握る。


「おっちゃんがいるから大丈夫だよ」


帰れないなら、改めて覚悟。

俺はこの世界で生きていく。父さん母さん、俺は頑張るよ!

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