その後13 残業した日
最近、郵便局が忙しい。
手紙が多いのだ。勤務時間いっぱいずっと忙しい。
だから、家に帰るとぼへーっとしてしまう。
おっちゃんが台所に立ってて、俺はテーブルでご飯待ち。そのとき、くあっとあくびが出ちゃった。
「眠いのか?坊主」
背中向けてるのに、あくびがバレた。おっちゃんは背中にも目があるのかな。
「うん。眠いんだ。ご飯食べたら寝ようかな。今日は本を読まないで寝ようかな」
お行儀悪く頬杖をついてそう言うと、おっちゃんはくるりと振り向いた。
「そうしろ。仕事が大変なのか?」
「最近、手紙多いんだ。何であんなに多いんだろう」
「暖かくなると、挨拶状を出すからな」
年賀状みたいなものだろうか。ハッキリと決まった日に送るわけじゃなくて、春になると出すのかな。
「そうなのか。じゃあ俺もおっちゃんに手紙書こうかな?」
「一緒に住んでる人には出さなくていいんだよ」
おっちゃんは笑った。俺も笑った。そうだよね。年賀状だって、一緒に住んでる家族には出さないもんね。それと同じか。
で、そんなことがあった翌日の仕事で。
「イズルくん、ちょっといいかな」
ていていっと手紙の仕分けしてると、局長さんに呼ばれた。
「ごめんね。今日、残業頼めるかな?ひとり休んでるからさ…仕分けがまだまだあって」
繁忙期で忙しい上に、休んでる人がいる。
俺も風邪で休んだことがあるから、きっとその時はみんなに迷惑かけた。お返ししなきゃ。
「はい、いいですよ。でも、暗くなる前に帰れますか?」
明るいうちに帰らないと、道は怖いしおっちゃん心配する。
「もちろん。ありがとう」
ということで、未知の時間に突入。いつもは遅くても3時くらいに帰ってたけど、今日はまだまだ働くよ。
無心で手紙を仕分ける。仕分けが終わったらまた次の手紙が運ばれてくる。すごいな。みんなたくさん挨拶状を出すんだなあ。
とかなんとか、集中して仕事してたらあっという間に時間は過ぎた。
「イズルくん、ご苦労さま。イズルくんのおかげで、今日の仕分けは終わったよ」
局長さんにそう言われ、一緒に働いてるおばちゃんたちにも「イズルちゃんのおかげね」って頭撫でられた。役に立てたことは嬉しい。
だけど、もう夕方。もう少しで日が落ちそうな時間だった。
慌てて帰る準備をし始めると、局長さんが申し訳なさそうに言ってくれた。
「家まで送るよ。遅くなっちゃったからね」
局長さんが家まで送ってくれるって。よかった。走って帰らなくてもいい。帰る準備もゆっくりでいいや。
局長さんとおしゃべりしながらの帰り道。
仕事はつらくない?とか、休みの日は何してるの?とか。そんなこと聞かれた。
おっちゃんのことも聞かれた。
優しい?とか、家ではどんな人?とか。
「おっちゃんは優しいですよ。でも、ちょっと俺に甘いかな…。この前は市場でいっぱいお菓子買ってくれたし。局長さんの知ってるおっちゃんはどんな人ですか?」
俺の知ってるおっちゃん以外、俺の知らないおっちゃんはどんな人だろうと思って質問してみた。軽い気持ち。すると、局長さんは懐かしそうな顔した。
「頼りになる人だよね。僕は、アシオさんに助けられたから」
そういえば、最初。俺が郵便局に連れてってもらったとき…。
「命の恩人って言ってましたよね」
「うん。大げさじゃなくて、本当にそうなんだ。アシオさんが騎士だったときなんだけどね。僕は局長じゃなくて、この街で集めた手紙や荷物を、馬車で隣の街へ運ぶ仕事だったんだ」
郵便局の仕事はいろいろある。俺がやってる手紙の仕分け係。街で手紙を回収する係。手紙を配達する係。遠くの街へ運んだり運んで来たりする係。手紙だけじゃなくて、小包とかも。
「それでね、あるとき、人がほとんど通らない森の街道で野盗に襲われたんだ」
びっくり。そんな怖いこともあるのか…。郵便局の人も命がけなんだ。
「たまたま巡回警備にあたってたアシオさんに助けられてね。だから、命の恩人なんだ」
「そうなんだ…」
「怖い話だったかな?ごめんね。でも、イズルくんの傍にはアシオさんがいるから大丈夫だよ」
そんな話をした曲がり角。市場の帰りのおっちゃんとバッタリ。
俺と局長さんを見て、訝し気なおっちゃん。
「今帰りなのか?」
「うん。今日は残業してたんだ。それで局長さんが送ってくれたんだ」
おっちゃんが局長さんを困り顔で睨む。
「すみません。今日は本当に忙しくて。イズルくんは立派な戦力だからつい頼っちゃいました。ありがとうね、イズルくん。じゃあ、また明日」
局長さんに手を振る。ばいばい。
おっちゃんはフーって重そうな溜め息ついてた。
「もし残業するにしても、暗くなる前に帰らせてもらうんだぞ。危ないからな」
「うん!」
おっちゃんのおおきい手を握る。
毎日顔を合わせてるけど、やっぱり挨拶状を出そう。毎日ありがとうって。そんなの書こうっと。
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