その後9 かんちがい
ある休日。
おっちゃんと買い物に出かけた。あったかくなってきたから、俺の新しい服を買ってくれるって。靴も買ってくれるって。
うれしいなーってウキウキして、つないだ手をぶんぶん揺らしてお店までやって来た。前も来たことあるお店。そこのドアを開けると、店員さんがにっこり出迎えてくれた。
「いらっしゃい、アシオさん。アシオさんのために、新しい商品を入荷してるよ」
店員さんが見せてくれたのは、子供向けの服だった。ここはオジサン御用達の店のはずじゃ。
おっちゃんも不思議そうに店員さんを見た。そしたら、店員さんは俺を見てふふって笑った。
「アシオさんが、坊ちゃんのためにまた買いに来るだろうなと思ったから。渋いものよりは坊ちゃんに似合いそうなのを置いておこうってな感じで」
「気を遣わせたな」
「いやあ。たまにはいつもと違う服を仕入れるのもいいものだな。新鮮な気持ちで仕入れができたよ」
おっちゃんは服を何着も買ってくれた。俺のために仕入れてくれたから買わざるを得ないってのもあるけど、それだけじゃなくて、おっちゃんは「坊主の服を何着あっても困らないからな」って。
今日も今日とて、おっちゃんは俺に甘い。
靴屋でも同じことがあった。靴屋のお兄さんが、小さめの靴を仕入れてくれてた。
「常連さんの欲しい物は揃えとかないとね。小さいあんよに合うのも、アシオさんみたいにでっかい足に合うのもね」
お兄さんはそう言いながら、俺の足に合う靴を見せてくれた。みんな親切だなあ。
お店を出たおっちゃんの右手には買い物袋。左手には、俺の手がしっかりがっちり。
「おっちゃん、ありがとう」
「ああ。服も靴も、坊主に合うのが買えてよかった」
おっちゃんと手をつなぐ帰り道。明日、新しい服を着ようと今からワクワク。でもいっぱい買ってもらったから、どれを着ようか悩む。それはそうと、お腹空いたな。今日の晩ご飯は何かな。買い物で疲れちゃったから、今日はお弁当の日かな。
そんなこんな話しながら大通りを歩いてたら、知ってる人に会った。
「あら」
女豹教官さんだ!
女豹教官さんはひとりじゃなかった。旦那さんであろう人と子供さんであろう人と3人で手を繋いでた。家族でお出かけかな。
おっちゃんは旦那さんとも知り合いのようで、「久しぶりですね」とか挨拶してた。
それをぼけーっと見てる俺。子供さんも、同じようにぼけーっと大人を見ていた。
子供さん…。何歳なんだろう。背は俺と同じくらいだけど、顔は幼い。自称14の俺より年下かな。こっちの世界での経験値が不足してる俺には、背丈では年齢が分からない。
年齢当てるのは難しいなあと考えてたら、大人たちは会話が終わったようで「じゃあ、また」と別れの挨拶。俺も慌てて「さようなら」ってペコリと頭を下げた。
結局何歳だったのかなあと思い、振り返って3人の後ろ姿を見た。
うーん分からない。
じーっと見てると、おっちゃんがくいっと手を引っ張った。
「坊主、行くぞ」
何歳なんだろうなあ。手をつなぐってことは、思春期以前かな。まだ小さいのかな。
あ、でも、俺は小さくないけどおっちゃんと手をつないでる。ん?じゃあ、俺は周りから何歳だと思われてるんだろうか。
と、そこまで考えたとき。
「親に会いたいか?」
おっちゃんが唐突にそんなこと言うものだから、俺は間抜けな声が出た。
「へ?」
立ち止まっておっちゃんを見上げると、おっちゃんは眉をぎゅっと寄せてた。それは怖い顔じゃなくて、悲しそうな顔だった。
「さっき、名残惜しそうに見てただろう?あの3人を。父親と母親それに子供…、そういうのが羨ましいか?」
そんなふうに思われてたのか。子供さんが何歳なのか考えてただけなのに、おっちゃんは俺のこと心配してくれたんだ。羨ましがったりしてるのかなって、寂しがってるんじゃないかなって。
「ううん、違うよ。見てたけど、羨ましいとか、全然そんなことないよ。前も言ったけどさ。俺には、おっちゃんがいるじゃん」
おっちゃんのごつくておっきい手を、ぎゅーっと握りしめる。
「…そうか。よし、じゃあ、市場で買い物して帰るか。今日の晩ご飯、おっちゃんが腕によりをかけてやろう」
おっちゃんの作る料理は、おうちの味だ。手の込んだ料理じゃないけど、おうちの味だから大好きなんだ。
「俺もお手伝いする」
「しなくていい。危ないからな」
おっちゃんが繋いだ手をぶんぶんぶんぶん揺らした。嬉しいのかな。嬉しいんだったらいいな。
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