その後2 あぶない仕事
俺の仕事は3時には終わってしまう。まだ子供だから、働ける時間が短いのだ。
「お疲れさまでしたー」
今日はあんまり忙しくなくて、いつもよりさらに早く帰らせてくれた。時間あるし、夕方までまだまだだし、たまには探検でもしてみようかと思い立った。探検だけど、知らないところは行かないよ。知らないとこは、危ないとこかもしれないから。
まずは、パン屋さん。俺はパン屋さんの常連になった。
「こんにちは。今日は柔らかいパンを2個ください」
1個は俺のおやつである。1個はおっちゃんの夜食である。
「はい。柔らかいパンがふたつ。それと、これはおまけ」
パン屋のお兄さんは、柔らかパンの他に、パンの切れ端をねじって揚げて砂糖まぶしたやつをくれた。やったね。
パンの袋を持って、どんどん歩く。天気がいいから、公園の広場でパンを食べよう。遠足の気分だ。
大きい公園。小さい子供たちがボール遊びしてたり、お年寄りがお散歩してたり。俺もおっちゃんと時々ここに来る。おっちゃんがスタンドで売ってるあったかい飲み物買ってくれて、それをベンチに座って飲むのが俺の中でのトレンドだ。
今日もそうしようかなと思ったけど、広場に点々と置いてあるベンチがどれも先客がいた。暖かいから日向ぼっこしてる人が多いのかな。
空いてるベンチを探して公園内をウロウロ。その途中で、掲示板が目に入った。何か催しの案内でも張ってるのかなあと思って近づいて、貼られている紙を読んでみた。
「皿洗い。こっちは、ベビーシッター。こっちは庭の手入れ」
ほー。求人広告だ。新聞に載ってるのは見たことあるけど、こういう募集もあるんだ。葉書くらいのサイズの紙に、仕事内容や給料などが書かれてる紙が何枚も貼られていた。俺は興味深々で求人票を眺める。
俺の年齢でできる仕事もあった。だけど、郵便局のほうがやや給料は良い。
あれ?でも。
「これはすごく給料良い…」
他の求人票に書かれてる給料より、俺の郵便局の給料より、ものすごい高い給料が書かれてる求人票があった。
「なになに…。『疲れた人を癒す仕事です!頑張りに応じて、給料はどんどん上がります!』…なるほど、これは」
俺には分かる。これは、夜のお仕事だな。子供も見るようなとこに貼っててもいいのかな…。ウッカリしてる子が給料に惹かれて行ったら危ないよ。
などと心配してたら、すっと隣に人の気配。求人票を見に来たのかなと、チラッと隣を見てみた。すると、そこには。
「あっ、隊長さん!」
プロポーズ事件以来、姿を見せなかった隊長さん。今日は公園を見回りしてたのかな。
「何を見ていた?」
「いろいろ仕事があるんだなあって。これなんかほら…」
『危ない仕事ですよね?こんなとこに貼ってていいんでしょうか?』と、言おうとした。しかし、俺の指差した先の求人票を見た隊長さんの顔が険しくなり…。
「…こんな仕事をしようとしたのか!」
すごい剣幕で叱られた。違うよ。夜のお仕事、しないよ…。俺が夜の仕事に興味を持ってると勘違いした隊長さんに説教された。「甘い言葉には裏がある」とか「自分を大切に」とか。
隊長さんは俺の心配してるからこんなに怒るんだろうなと思い、反論せずに甘んじて説教を拝聴する。
だけどその途中で、
「金が必要なら、ウチで働けばいい。私の相手をするだけで、これ以上の給金を支払おう」
と、真顔で言われた。
その仕事、この張り紙と大差ないような…。隊長さんの相手をしてお金をもらうって、それは愛人?俺がお金に目がくらんで、隊長さんの愛人になるって思ってるんだろうか。張り紙だって、見てただけなのに。夜のお仕事をしようだなんて、ちっとも思ってないのに。
…なんだか腹が立ってきた。
しょぼんとした感じで説教聞いてたけど、俺はキッと顔を上げた。
「そろそろ帰ります!変な仕事しないので、安心してください!お金のために、隊長さんの愛人にもならないから!」
俺はそう言い捨てて、走って逃げた。隊長さんは追いかけてこなかった。よかった。
夜、おっちゃんが帰って来たあとに今日のこと話した。
掲示板のこと、隊長さんのこと、夜のお仕事に興味を持ったって勘違いされたこと。
「あの公園も、第一隊の見回り区域じゃないはずなんだが…。坊主を付け回してるのかもしれないな、あの隊長は」
おっちゃんは俺を抱き寄せてポンポンした。俺を付け回すほど、隊長さんも暇じゃないと思うけど。
…ただ。隊長さんに少しヒドイ言い方をしてしまったかもしれない。おやつじゃなくて夜食になった柔らかいパンを食べながら、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
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