第28話
隊長さんが不機嫌そうだ…。
ちゃんとした教育を受けてないとでも思われてるのだろうか。
違うよ。高校にはちゃんと通ってたけど、この本が高校生レベルじゃないんだよ。
「普段はどんな本を読むんだ?」
隊長さんはそう言いながら、手でサッと合図した。そしたら使用人さんが素早くテーブルの上を片づけた。
「…いつもは本、読まないです」
俺がこの世界に来てから読んだのは新聞くらい。この世界に来る前は、漫画か教科書くらい。
「そうか。ならば、今日から読むといい。何か、読みやすい物を持って来てくれ」
隊長さんの指示を聞いて、使用人さんはまた出て行った。そして、今度は何か分厚い本を持ってきて、俺に渡してくれた。
本のタイトルからすると、童話集。パラパラめくると、たくさんのお話が載っていた。
「ありがとうございます!」
おっちゃんに寝る前にいろいろお話してもらってるから、これならとっつきやすそうだ。
フフフと嬉しくなってると、隊長さんが俺を不憫そうな目で見てるのに気が付いた。
…14歳なのに童話で喜んでる姿。そうか、不憫に映るよね。
せっかく持って来てくれたことだし、今から本を読もうかなって思ったが。隊長さんはソファに座ったまま動かない。
「ひとりで大丈夫ですから、気を遣わないでください」
隊長さんは隊長さんの時間があるだろうし、俺に構ってなくていいよって気持ちでそう言った。
だが、しかし。
「浴室はそちらのドアだ。着替えも用意させている」
なぜか唐突にお風呂を勧められた。俺、臭いの?
首を傾げながらも、どうせお風呂入らなきゃいけないので本を読むのは後にすることにした。
隊長さんが示したドアを開けると、そこは脱衣所。バスタオルや着替えが置かれていた。そして、ガラスのドアがある。この先はきっと、お金持ちなお風呂場があるんだろう。
ワクワクして、服を脱ぐ前に覗いてみた。
シャワーだけじゃなくて、浴槽もあった。もうお湯も張られてた。やった!足伸ばしてゆっくり入ろう!
ウキウキして脱衣所に戻ると、隊長さんが立っててビックリ。気配を感じなかったぞ。
「素敵なお風呂ですね」
ビックリしたなあと言う代わりに、お風呂を褒めた。そして、その返事にビックリさせられた。
「ひとりで入るのか?」
えっ?そりゃひとりで入るでしょ。いくら広いからって、一緒に入ったりしないよ。一緒に入るほど親しくないし…。
「はい。ひとりで入ります」
「…そうか。では、ゆっくり入るといい」
隊長さんは脱衣所出て行って、そしてこの乙女チックな部屋からも出ていった。音で分かった。
…何だったんだろ。
もしかして、お風呂の使い方を教えてくれるつもりだったのかな。そんなに俺って何も知らないように見えるのかな…。見えるんだろうな。
そんなこと考えつつ服を脱いでたら、ポケットの中のクッキーを思い出した。…食べちゃおう。テーブルの上にまだあったし、あとでまた包めばいいや。
おいしいなあと口をもごもごさせながら、いざお風呂。
体洗うタオルは柔らかく、石鹸は花の香り。スゴイ。浴槽も広い。ひゃっほー!贅沢だー!っていう気分でバチャバチャ。ひとりではしゃいだ。
だけど。
…おっちゃんも一緒だったら「風呂場で遊ぶな」って怒られて、くすぐりの刑にされるかな。想像すると、なんだか寂しくなった。おっちゃんは今頃、何してるのかなあ。ついでにルエンくんも。
お風呂が楽しくなくなっちゃったので、出ることにした。
フワフワの柔らかいタオルはありがたかったけど、いつも使ってるゴワゴワのタオルが懐かしかった。おっちゃんの大きい手で髪を拭いてもらいたいな。
…早く家に帰りたいな。
しょぼんとした気分で部屋に戻り、メルヘンソファに腰掛ける。
時計を見ると、まだ9時前。
クッキー食べようかなって思ったけど、あんまり欲しい気持ちじゃなくなってた。不思議だな。さっきまではクッキーにテンション上がってたのに。
寝よう。もう寝よう。寝て、朝になったら家に帰ろう。
お姫様ベッドに潜り込む。
体が包み込まれるような、柔らかいベッド。こんな高級で品質のいいベッドで寝るのは初めてだ。でも、おっちゃんがいない。
布団を頭まで被ったり、布団の中で丸まったり、なんとか眠ろうと頑張る。
うーん。眠れない。
そうだ。さっきのぬいぐるみにおっちゃんの代わりをしてもらおう。
さささっとベッドから下りて、ソファに座らせたぬいぐるみを抱えてさささっとベッドに戻った。
ぬいぐるみを抱えて寝るなんて、子供そのものだ。分かってるけど、寂しいんだ。
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