第27話

ぐうぐうすぴすぴ。


半分夢の中、切れ切れにいろんなことが頭に浮かぶ。うーん…。今日の晩ご飯は何だろう。寝る前に今日は何のお話してもらおう。


とまあ、そんな感じで気持ちよくお昼寝してたが、ガタリという音が聞こえてビクリと目が覚めた。


なになに?


ビックリしてキョロキョロすると、目の前には隊長さんがいた。

はっ。そうだ。俺は隊長さんの家に来てたんだった。お泊りなんだった。


「あっ…。寝ててごめんなさい。おかえりなさい」


俺を見下ろす隊長さん。白いコートじゃなくて、普段着だった。普段着といっても、スマートで高級そうな雰囲気がバリバリ。


やっぱりすごく美形だなあ、俺もこんな顔ならよかったのになあと思って、ぼけーっと見てしまった。


隊長さんも真顔で俺を見続けた。俺、なんか変かな?ヨダレ出てる?


「夕食だ。お腹は空いているか?」


そういやクッキー食べたけど、もうお腹空いたなあ。と、なんとなくクッキーの置かれてたテーブルに目を遣る。

テーブルは、俺が寝てる間にキレイに片づけられていた。


「先ほどのクッキーは、食後にまた用意させよう」


いやしんぼって思われたかもしれない。もっと食べたいとか、そんなつもりじゃなかったけど。でももっとくれるならそれは嬉しい。

ぬいぐるみをソファに座らせて、夕食を食べるために隊長さんについてった。


ダイニングルームも、それはそれはスゴイ。

いい木材だと思われるテーブル。真っ白なテーブルクロス。細かい細工の燭台。スゴイ。


だけど、俺と隊長さんのふたりだけだった。


「隊長さんの家族は一緒に住んでないんですか?」


こんな大きくて広いお屋敷。使用人さんはたくさんいるみたいだけど、ひとりで住んでるんだったら寂しいだろうな。

俺は狭いボロアパートでも、おっちゃんがいないときは寂しいから。


「いや。両親も一緒に住んでいるが、今は長期の旅行に出ていて不在だ。帰ってきたら、また紹介しよう。きっと君を気に入るだろう」


紹介してもらわなくてもいいけど…と、思ったけど、泊まらせてもらうんだから後日でもお礼を言わないといけないんだろうな。


「はい。お願いします」


そう返事すると隊長さんは満足げに頷いた。

今度来るときは、泊まらせてもらったお礼を兼ねてお土産持ってこなきゃいけないよなあ。

おっちゃんに相談しないと、と、そんなこと考えてたら料理が運ばれてきた。


おっちゃんとのゴハンは、大皿ひとつにおかずがドンと載ってる、なんとも庶民的な食事だけど。

このお屋敷は違う。コースだ。少しずつ出てくる。気を引き締めて食べなければ。

俺はちゃんと丁寧に食べられるって隊長さんに見せないと。おっちゃんにキチンと躾けられてるって見せておかねば。おっちゃんはちゃんとした保護者なんだよって知らしめなければ。


緊張して少しずつ料理を口に運んでいたら、隊長さんが眉間に皺を寄せた。

マナーおかしい?

丁寧に食べることは、この世界でもそれなりにマナーにかなってるだろうって思ったんだけど。


「あまりおいしくないのか?」


隊長さんからの質問は意外だった。まずそうに食べてるって思われたのかな。


「えっ?おいしいです。すごくおいしいです!緊張してるから…あまり喉を通らなくて」


料理を作ってくれた人にも悪いので、急いで否定した。そしたら隊長さんは、ふむふむという感じで頷いた。


「今は緊張していても、そのうち慣れるだろう」


豪華な料理を食べるから緊張してると思われたようだ。違うんだな。ま、いいか。



食後は、また乙女チックな部屋に案内された。

テーブルの上にクッキーが復活してた。よっしゃ。食べよう。

と、思ったが。隊長さんは俺を部屋に送り届けてくれた後も、出て行かない。出て行かないと、クッキー食べにくい。

俺をひとりにしないように、気を遣ってくれてるのかな。だったら今はクッキーを我慢しよう。


隊長さんは、ふたつあるソファのうちのひとつに座って足を組んだ。すごい足長い。


「この部屋は気に入ったか?」


「…はい」


乙女チックすぎるけど、泊まらせてもらってる立場だから一応コクリと首を縦に振った。


「そうか。それならよかった。他に何か必要なものはあるか?」


「そうですね…。本でも貸していただければありがたいです」


まだ寝るには早い時間。本を読んで時間つぶすのはいい考えだ。

隊長さんはサイドテーブルの上にあったベルを鳴らした。そしたらすぐに使用人さんが来た。


「私が14の頃に読んでいた本を持ってきてくれ」


そう指示すると、使用人さんは丁寧にお辞儀をしてどこかへ消えた。きっと、このお屋敷には図書室があるんだろう。


俺もソファに座った。俺がさっき昼寝してたソファ。

隊長さんは何も言わない。俺が何か言ったほうがいいのかな…。何か…。聞いてみよう。


「隊長さんも、騎士の養成学校で勉強したんですか?」


「そうだ。だが、君の保護者の働いているところとは別だ。私は幹部養成校の出身だ」


幹部養成校…。よく分かんないけど、エリートなんだろうな。

お金持ちで美形でエリート。モテモテなんだろうな。恋人とかいるのかな。いや、そこは聞かないでおこう。踏み込みすぎだよね。うん。


それから少し、隊長さんの学生時代の話を聞いた。

おっちゃんの働いてる学校はボロかったけど、隊長さんの話からすると幹部養成校は綺麗だということが判明した。世の中は平等にできてない。


「お待たせいたしました」


使用人さんが本を持ってきてくれた。

隊長さんが14歳の頃に読んでいたという本。政治とか経済とか兵法とか。そんな内容を思わせる表紙だった。

分かるかな?と自分に期待を込めて本を開いたが…。


「すみません…。俺には難しいみたいです」


そっと閉じてテーブルの上に載せ、隊長さんの様子を恐る恐る窺う。ちょっと不機嫌そうだった。

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