第24話

※第三者視点続き


運命の君を泣かせてしまってから数日後。早朝訓練を終えて、隊長とふたりで執務室へ入ってすぐ。


「昨日、謝りに行ってきた」


隊長が誰に謝ったのか、それはひとりしかいない。


「運命の君に会えたのか?」


「家にはいなかったが、その近くで偶然会えた。

…男にも、謝っておいた」


「うん。そのほうがいい。で、許してくれたのか?」


「握手をした。友達になった。あの子の手は、小さかった」


フッと笑みを浮かべて、握手をしたであろう自分の手を眺める隊長。

一歩前進といったところか。でも…。


「…友達…」


そこから始めるのか。

先は長そうだが、俺も隊長の恋を実らせるためのアドバイスは惜しまない。

改めて、そう決意した。


「で、聞きたいんだが」


おっと、早速アドバイスを求められた。


「何だ?」


「私があの子と仲良くなるために、何をすればいいと思う?宝石でも贈ればいいのか?」


5秒で決意は揺らぎかけた。

そこからアドバイスしなければいかんのか?

今までモテまくってきたのに、どうしてそんなに恋愛に対してポンコツなんだ?


「やめろ、宝石は止めろ。まだ早すぎる。

…そうだなあ。酒を飲みに行ったり…も、まだ早いかな。ランチにでも誘えば?」


「そうだな。誘ってみるか」


何だかイヤな予感がする。


「ところで、その、運命の君とやらは何歳なんだ?カード使ったんなら、年齢も分かってるんだろ?」


イヤな予感が外れますようにと、祈るような気持ちで隊長の答えを待つ。

しかし、隊長は何の躊躇いもなく堂々と言った。


「14だ」


俺は言葉を失った。


「………。いやいやいや。犯罪…犯罪だって」


いくら運命とはいえ、10以上も年が離れている未成年の子供…。

14の子を相手に隊長が何かやらかしたら…。

隊長は捕まってしまうのか。誰が隊長を捕まえるのか。俺?

などと、頭の中でいろいろ回転したが、隊長は何のことやらと言った風に首を傾げた。


「はんざい?」


犯罪に決まってるだろうが。

いや、でも、ちょっと待て。


「運命の君は、男と一緒に住んでるんだよな?」


じゃあ、その男は現在進行形で犯罪を犯しているのでは。14の子と同棲だなんて、それは許されることではない。


「そうだ。保護者の男だ」


「それを先に言え。おい」


運命の君と男は、てっきり同棲しているのかと思っていた。捨て子と、その保護者なのか。

俺の勘違いもあるが、これ以上情報の食い違いが起こるとアドバイスできるものもできなくなる。


「食事に誘いに行くとき、俺もついてくよ。な?」


親切心からそう申し出たが、隊長は敵と前にした時と同様の冷酷な目を俺に向けた。


「あの子に良からぬ感情を抱いたら…お前でもただではおかない」


「隊長のことが心配なだけだって…」


本当に、隊長はどうしてしまったのだろうか。



ということで、それから更に数日後の休日。

なんとか都合をつけて隊長とふたりで抜け出す時間を作ることができた。

何してんだろう、俺は。


「あの子は休日の昼間、ここを通ることが多い」


何で隊長は運命の君の行動パターンを掴んでいるんだろう。怖い。

大通りから少し離れた、質素というか粗末な家が並んだ場所。こんなとこで隊長がウロウロしてたら、そりゃ目立つか。噂も立つか。


本当にここを通るんだろうかと疑いつつ、しばらく待つと、隊長の纏う空気が変わった。


「あの子だ」


物陰から少し身を乗り出す。隊長の視線の先を追うと…。


中年の男と、小柄な男の子が手を繋いで歩いていた。

男の子だったのか。女の子じゃなかった。

今まで隊長と付き合いがあったのは、俺が知る限り全員女だったから、てっきり運命の君も女の子だとばっかり。

男の子か。しかも、年齢より幼く見える。

男の子はしきりに「ねえ、おっちゃん」と、男に笑顔で話しかけている。

ひえっ。隊長は、あんないたいけな子どもに運命を感じてしまったのか。


そんな俺の混乱をヨソに、隊長は姿勢よくずんずんと歩き出す。

俺も慌ててついていく、が。


さっきまで楽しそうにしていた運命の君が、隊長の姿を認めた瞬間に顔を強張らせた。

男も運命の君を隊長から守るように抱き寄せた。


…隊長。何でこんなに警戒されてるの?

俺の想像以上に、やらかしてるの?


「こんにちは」


「…こんにちは」


隊長の挨拶に、運命の君は小さく低い声で挨拶を返した。

見下ろすように、隊長が運命の君に真顔で視線を送っている。せめて笑顔を見せろよ。て、手助けしなければ。


「こんにちはー」


俺は努めて明るい声で挨拶をし、腰を下ろして運命の君と目線を合わせた。

あらー。怯えてる…。


「今日は見回りに来たんだよ。隊長のお友達なんだってね?お名前、教えてくれるかな?」


「イズルです…」


「イズルくんかー。そうかー。よかったら、今度、隊長さんとゴハン食べに行ってくれないかな?

イズルくんを泣かせちゃったって、気に病んでるんだよ。ね?隊長さんが、お詫びに奢りたいんだって」


多少強引でも、約束を取り付けてやろう。その意気込みがいけなかったのか。


「すまないが、坊主に構わないでくれ」


イズルくんからの返事の代わりに、男にビシッと断られてしまった。


「おっちゃん、帰ろ」


イズルくんはビクビクした様子で、男の手をせわしなく引っ張った。

そしてふたりは、手を繋いで足早に消えた。



ふたりが去ったあと。


「やはり、宝石のほうがよかったのではないだろうか」


隊長が何か見当違いのことを言ってた。

隊長、この恋を成就させることができるのか…?

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