第17話
家に帰ってご飯を食べさせてもらった後。
「おっちゃん、くすぐったい」
「じっとしてろ」
今日はシャワー浴びたらダメなので、おっちゃんがお湯で濡らしたタオルで俺の身体を拭いてくれた。
おっちゃんは世話焼きだ。
熱いタオルでコシコシされると気持ちいい。おっちゃんが風邪引いたときは、俺がしてあげよう。
目を閉じて、ほへーっとなってると、おっちゃんが手を止めた。もう拭くのは終わりらしい。残念。
「元気になったら、銭湯でも行ってみるか」
「銭湯?」
この世界にも銭湯があるんだと思い、おっちゃんに聞き返した。
そしたら俺が銭湯を知らないんだと思ったらしく、おっちゃんは説明してくれた。
「ああ、大きくて広いお風呂だ。足を伸ばしてゆっくり浸かれる」
ここに来てからシャワーだけだし、お風呂に入りたい。
「じゃあ、早く風邪治さなきゃ。あと、そうだ、おっちゃん。俺、髪を切りたいな。おっちゃんと同じお店に連れてって」
おっちゃんは返事をしないで、俺に服を着せた。
右手左手もそもそもそもそ。全部着終わったら、おっちゃんは少し困ったように話した。
「おっちゃんは床屋に行ってるんじゃなくて、自分で切ってるんだ。坊主に良さそうな床屋、探しておいてやるよ」
「じゃあ俺もおっちゃんに切ってもらいたい」
おっちゃんは俺の髪の毛を確かめるようにゆっくり摘まんで触った。
「うーん、できるかな…。自分以外の髪は切ったことないし、坊主の髪は細くて柔らかいからな。まあ、とにかく、もう早く寝ろ。体に障る」
もう喉もそんなに痛くないし、頭も体も痛さはなくなったし…。まだ起きてたい。
「今日は一日中寝てたから…寝れるかな」
おっちゃんに言われたから横になるけど…。目はパッチリしてる。
「坊主なら眠れる。ほら」
おっちゃんが俺のおでこに手を当てた。しまった。魔法をかけられてしまう。
「おっちゃん、ちゃんと隣で寝てくれるよね」
風邪引いてるから隣で寝てくれないかなって少し心配した。
「ああ、安心しろ」
おっちゃんの返事を聞いて、ホッとして目を閉じた。
次の日も、おっちゃんに背負われて学校に行った。
昨日はよく見えなかったけど、敷地の中には建物が何棟かあった。どれも古めかしかった。言い方変えると、ちょっとボロかった。
医務室に入ると、お医者さんが待っててくれてた。
「おはよう。具合はどう?薬はちゃんと飲んだ?」
お医者さんはおっちゃんの背中の俺に問いかけた。
「すごく良くなりました。お薬も飲みました」
あの苦い薬…。味を思い出して、うえっとなった。
「そうか、よかった。でもまだ無理はいけないから、ここで安静にしておいてね」
お医者さんは昨日と同じベッドのカーテンを開けた。するとそこには…。
ベッドにはクッションがたくさん置かれてて、昨日は無かったサイドテーブルがあった。
おっちゃんにベッドに降ろしてもらったら、背もたれとしてクッションを置いてくれた。ふかふか。これなら起き上っててもラクチン。
そして、サイドテーブルには…。パズルとか、積み木とか。これ、知ってる。知育玩具ってやつだ。
「イズルくんくらいの子どもが遊ぶオモチャって何かよく分からなくて」
お医者さんは照れたように笑った。俺のために知育玩具を用意してくれたってのか。
これは喜ばねばいけないんだろうが。知育玩具で喜ぶ年齢じゃないんだなあ。
「初めて見た。やってみるね」
戸惑いながら手に取ってみると、お医者さんはニコニコ。おっちゃんは少しだけ不機嫌そうに俺に尋ねた。
「坊主、他に欲しい物あるか?」
欲しい物…。なんだろ。
「そういえば、新聞読んでない。新聞読みたい」
おっちゃんにお願いすると、頭をわしわしされた。
「じゃあ昼に持ってくる。大人しくしてるんだぞ」
「任せて!おっちゃん、お仕事頑張ってね」
おっちゃんはお仕事のときは鬼教官なのかな…。そんなおっちゃんも見てみたいような、見てみたくないような。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます