第15話

熱を出して、おっちゃんにおんぶされて。

その後は…。


はっと目が覚めると…。

ここはどこ?知らない天井が見える。


熱でボンヤリしたまま、きょろきょろと周りを見てみる。ベッドに寝かされてて、ベッドは白いカーテンで仕切られていた。病院かな。


むくりと起き上がろうとしたけど、頭がズキってして体も痛い。だから、ちょっと起き上ったけど、ぼすっとベッドに逆戻り。すると。


「起きたのかな?」


カーテンの向こうから声が聞こえた。誰だろう。お医者さん?

ギッという椅子から立ち上がった音がした。そして、コツコツと靴の音。

お医者さん、お医者さんかな。布団を目の下まで上げてソワソワしてると、カーテンが開いた。


「目が覚めた?」


顔を覗かせたのは、おっちゃんと同じくらいの年齢の人。優しそうなおじさんで、白衣着てた。きっとお医者さんだ。


「ここは医務室だよ。騎士養成学校の医務室。君はアシオ教官に運ばれてきたんだ」


騎士養成学校…。おっちゃんの仕事場だ!おっちゃん、教える仕事って言ってたもん!

ビックリして目をパチパチさせると、お医者さんは俺を安心させるように笑った。


「気にしなくてもいい。この医務室は、職員や学生の家族も診察できる制度だから」


そこは全然気にしてなかったけど…。そうなんだ。家族も診てもらえるんだ。俺は厳密には家族じゃないけど、おっちゃんは俺の保護者だから家族なのかな。

ベッドの中から室内を見てみるが、おっちゃんの姿はない。


「教官は仕事中。もうじき昼休憩だから、来ると思うよ」


そうか。おっちゃんはちゃんと仕事行ったんだ。よかった。俺のために休むことになったら申し訳ないから。


おっちゃんがここに来たら、ありがとうって言わなきゃ。そう思って静かに目を閉じた、けど。


「先生!軟膏ください!!」


ドアが勢いよくバンッと開いてビックリ。目をパッチリ開けて、音のほうに視線を向けた。

お医者さんはゆっくり振り返り、溜め息交じりにお小言。


「また君か。もう少し静かにドアを開けてくれって何度言えば分かるんだ」


お医者さんのお小言には反応せず、入ってきた男の人は不満げにぶちぶち文句を言う。


「聞いてくださいよ。剣技の演習で、またあの鬼教官にバシバシやられたんですよ。

痛いのなんのって…」


学生さんかな。剣技の授業とかあるんだ。そうだよね、騎士の養成学校だしね。

そんなこと思ってると、学生さんと目が合った。で、ついついっと近づいてきた。


「先生、その子は誰?ここの学生じゃないですよね。可愛いっすね。誰か職員さんの子どもですか?誰のお子さんですか?」


かわいい…。この世界に来てからよく言われるけど、また言われた。

熱でボンヤリの頭で、じーっと学生さんを見る。イケメンって思ったけど、すぐに遮られた。

お医者さんがベッドで寝てる俺を隠すように、学生さんに向き直ったから。


「はいはい。この子は病人だから休ませてあげなさい。軟膏はいくらでもやる」


「いやいやいや。軟膏いらないですから、その子をもうちょっと…」


ずいずいぐいぐいくる学生さんだったが、ベッドに辿り着くことはできなかった。

医務室に音もなく入って来た人影が、学生さんの襟を後ろから掴んだのだ。


「ウチの坊主は見世物じゃない」


おっちゃんが現れた。

そして襟をつかんだまま、学生さんを後ろへグイッと投げた。


「鬼教官…じゃなくて、アシオ教官のお子さんですか?いやいや、そんなはずは。そんなカワイイ子…」


おっちゃんがギロリと睨むと、学生さんは「…くそう!」と言って医務室を出て行った。軟膏はいらないのかな。


ベッドの傍に来たおっちゃんは、心配そうに俺のほっぺに手を当てた。


「坊主、具合はどうだ?」


おっちゃんはいつもと違った。着てる服が違った。教官の制服だろうか。カッコいい。治ったらそう言おう。たくさん言おう。今は喉が痛いから、聞かれたことだけ答える。


「少し、マシ」


そう答えると、今度はおでこに手を当ててくれた。


「すまんかったな。熱があることに気付くのが遅れた」


俺はゆるゆると首を横に振る。


「連れてきてくれて、ありがと」


ようし。お礼を言えた。お医者さんに連れてきてくれたし、休憩中に会いに来てくれたし。俺は恵まれてると思うよ。

そんな気持ちで笑って見せると、おっちゃんも微笑んだ。


「坊主、何か食えそうか?」


コクリと頷くと、おっちゃんは俺のおでこから手を離した。


「食堂で何か貰ってくる。少し待ってろ」


そう言い残し、おっちゃんは医務室をあとにした。おっちゃんはちゃんとご飯食べる時間があるのかな。

そう心配してると、お医者さんがボソッと言った。


「アシオ教官、あんな顔もするんだね」


鳩が豆鉄砲を食ったような顔のお医者さん。

そういや、さっきの学生さんには『鬼教官』って言われてた…。お仕事してるときのおっちゃんは怖いのかな。

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