第14話
ある日の朝。俺もお仕事の日。
お別れする大通りで、おっちゃんは俺に言い聞かせた。
「いいか、分かってるな?」
「うん。日が暮れる前に、お弁当を買いに行く!」
今日もおっちゃんは帰りが遅いんだって。だから、また晩ご飯はひとりでお弁当を買いに行く。
「あと、帰りを待たなくていいからな。お弁当買ったらすぐ食べて、食べ終わったらすぐ寝るんだ」
頷きそうになったけど、ん?と少し考える。
夕方にお弁当買いに行って、それを温かいうちに食べたら…。まだ夕方だ。
「それはちょっと早いよー」
文句言うと、おっちゃんは俺の頭をわしわしした。
「まあ、それぐらいの気持ちでいろってことだ。とにかく、夜は家から出るなよ」
おっちゃんはそう言って、もう一往復俺の頭を撫でた。そんで、手を振って、大通りを歩いて行ってしまった。
おっちゃんの背中が見えなくなってから、俺も俺の仕事場へ。
はあ。おっちゃんの帰りが遅いのは寂しいなあ。
ていていていっと手紙を仕分けて、あっという間にお昼休み。
俺がおばちゃんたちとパンを食べてると、配達員のお兄さんもちょうど帰ってきたから一緒に食べた。
お兄さんは溜め息吐いて、俺の頭をぽしぽし。
「イズルくんが配達に行った日からさ、あのお金持ちの地区に配達行くと溜め息吐かれるんだよ。『あの子はもう来ないの?』って、どのお屋敷でも聞かれる」
俺は自分のモテモテ具合に驚いたが、人気があるのは嬉しいな。…人気なのかな、これ?
はてと首をかしげると、おばちゃんたちが心配そうな声で言った。
「イズルちゃんは可愛いからねえ」
「そうそう。変な人に連れてかれないか心配だわ」
そんな…。変な人に連れて行かれたりしないよ。それくらい大丈夫だよ。
だけど、もしもの時は。
「おっちゃんが守ってくれるから大丈夫だよ」
おっちゃんのあの大きい手は、スゴイ。とにかくスゴイ。
おっちゃんの手を思い出して、お昼ご飯の続き食べた。
自分で言った言葉が自分に力をくれて、午後の仕事もすごく頑張れた。
仕事が終わったあと、まだ早いけどお弁当買って帰ることにした。
だって家に帰ったら昼寝してそのまま夜まで寝てそうだって自分で思う。
おっちゃんに買ってもらった冬装備をして、郵便局を出てお弁当屋に向かう。
今日は一段と寒いから、手袋も耳当てもマフラーも大活躍だ。
お弁当屋ではもちろんイズルスペシャルを頼む。
「今日は早く来たのね。ちょっと早すぎる気もするけど…」ってお弁当屋の奥さんに苦笑いされた。
「ただいまー!」
誰もいないけど、大きい声でただいまって言う。それで少し寂しくなくなる。
「寒いから部屋を暖めないと!」
この世界の暖房は、なんか原理は分かんないけど石だ。
オーブンみたいな箱に石が入ってて、念じたら暖かい空気が出る。シャワーのとこにも同じ石があるのかも。
「ようし!じゃあ次は新聞を読もう!」
俺は昨日の新聞をテーブルに広げ、一面から順番に読み始めた。
地図を広げながら読んでたら、だんだん日が傾いてきた。お弁当食べよう。
お弁当は冷たくなってしまってたけど、イズルスペシャルはやっぱり格別。
「さて、シャワーを浴びなきゃ」
髪を洗いながら、髪が伸びたなあと思う。
前はこんなにてろーんってならなかった。髪を切りたいな。おっちゃんに相談してみよう。
適当にわしゃわしゃ乾かして部屋に戻ると、何だか部屋の温度が下がってる気がした。
暖房の箱を覗いてみると、前よりも石が小さくなってた。小さくなって、パワーが落ちてるのかな。おっちゃんに聞かないと分からない。
「おっちゃん、まだかな」
テーブルに突っ伏して、なんとなくそのまま。気付いたら寝てた。
「こら坊主、何してんだ」
ゆさゆさ肩を揺さぶられて起きると、おっちゃんがいた。時計を見ると、もうすぐ日付が変わる時間。
「はっ…寝てた、おっちゃん」
「寝てた、じゃない。どうしてベッドで寝ないんだ。部屋を暖かくもしないで…」
おっちゃんは怒った顔して、俺のヨダレをぐいっと拭いた。
「箱の中の石、小さくなっちゃった…」
「そうだったんだな。交換用の置き場を坊主に言ってなかったな。台所の戸棚の下だ。あとでおっちゃんが交換しておく」
おっちゃんはそう言って、俺の座る椅子を引いた。
「ベッドに行くんだ。おっちゃんも体を洗ったらすぐ寝るから」
「うん。じゃあベッド行く」
ベッドで横になったら、自分の髪が湿ってて首元にぺちゃーってなるのが何だか冷たくてイヤだった。クシュンってクシャミが出て、変に寒かった。
そして、翌朝。
「坊主、朝だぞ。仕事が休みだから、ずっと寝とくのか?おっちゃんはもう仕事行くぞ」
おっちゃんに起こされたから起きようと思ったけど、体がうまく動かない。節々が痛い。寒いけど暑い。
「眠いのか?夜更かしするからだ」
おっちゃん笑って俺をコロンを転がした。そして、俺の異常に気付いた。
「坊主?どうした?しんどいのか?」
しんどくない、って言おうと思ったけど、喉も腫れてるみたいで変な呼吸音しか出てこなかった。隠れたくなって、体を丸めた。
おっちゃんは俺のおでこに手を当てて、あからさまに焦った。
「すぐに医者に診せてやるからな」
体がうまく動かない俺に、おっちゃんは上着をたくさん着せてマフラーぐるぐる巻いて、そんでおんぶしてくれた。
お医者さん…。どこだろ。
俺は今日仕事休みだけど、おっちゃんはお仕事だ。
頭が重くてボーッとなってるのと、迷惑かけちゃったって悲しくなってしまったが合わさって、おっちゃんにおんぶされながら泣いちゃった。
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