第13話

おっちゃんの休みの日。


ふたりで街に出掛けた。おっちゃんが服を買ってくれるって。

手をつないで歩いてると、道行く人に「あらー。お父さんとお買い物?いいわね」って言われた。


おっちゃんはお父さんって言われてイヤじゃないかな。おっちゃんと言っても、俺のお父さんって年でもないだろうし…。ちょっとだけ心配しておっちゃんを見上げてみたら、おっちゃんはフッて感じで微笑んでた。そうか、イヤじゃないんだな。


おっちゃんに連れられて来たのは、ちょっと雑多な商店街。

最初に靴を買ってもらった店も、この並びにある。


だけど今日は靴屋を通り過ぎ、別の店のドアの前。そこでおっちゃんは俺の手を一度握りなおした。


「すまんな。おっちゃんはあんまり店に詳しくないんだ」


何で謝るんだろう…。アレかな。オシャレな店を知らないから申し訳ないって思ってるのかな。


「おっちゃん、俺はおっちゃんの知ってる店でいいんだ」


中学時代の体操服で出歩くような俺だ。オシャレにさほど興味はない。

いつか好きな子ができてデートでもするってんなら、オシャレのひとつやふたつするだろうけどさ。

今はそんな気配さっぱりない。


俺はおっちゃんの手を引っ張って、お店のドアを開けた。チリンとドアベルが鳴って、お店の人がすぐにこちらを見た。


「いらっしゃいませ。あれ、アシオさんと…?」


お店の人はおっちゃんを見て、そして俺を見てキョトンとなった。

おっちゃんは短く俺のこと紹介した。


「ウチの坊主だ。この坊主に合う服をくれ」


ウチの坊主、だって。くすぐったい。


「そういえば、前に小さめの服を買いにきたことありましたね。

かわいい坊ちゃんだ。でも、ウチに坊ちゃんにちょうどいい服はあるかな。ウチの店は、アシオさんみたいな人を相手に商売してるから」


おっちゃんみたいな人ってどんな意味だろ。店をキョロキョロしてみると、ああなるほどと納得した。おっちゃんくらいの年齢で、ちょっといかつい人がお客さんなのか。

お店のお兄さんは俺にサイズが合いそうなのを何枚か服を見せて、これはどう?こっちは?と聞いてくれた。

正直に言おう。デザインはともかく、色が渋い。おっちゃんに似合いそうな渋さ。俺に似合うかなって少しだけ思ったけど、おっちゃんが俺のために買ってくれるんだし。それが一番大事。


「おっちゃん、これ買ってくれる?」


お店の人が見せてくれた一枚を差すと、おっちゃんは頷いた。

そんで、お店の人に注文つけた。


「他にも何枚か見せてくれ。坊主の服はいくらあっても困らないから。

手袋と耳当てと、マフラーも」


おっちゃん、俺に甘くないか?甘いよね?

新しい服を手に入れることより、おっちゃんの優しさが嬉しくてニマニマしてしまった。



渋い色のフワフワモコモコの服を何着も買ってくれた。手袋と耳当てもマフラーも。完璧な冬装備だ。

買ってすぐ、お店を出るときに早速手袋をはめてみた。


「おっちゃん、あったかいよ」


おっちゃんに見せると、「よかったな」って頭をわしわしされた。

そしてその手で、いつものように俺の手袋の手を握ってくれた。だけど…うーん。


俺はおっちゃんから手を離した。俺の行動に、おっちゃんは不思議そうにした。


「どうした?」


俺は手袋を外して、ポケットに突っ込んだ。そして、もう一回おっちゃんの手を取った。


「手袋、今は止めとく。おっちゃんの手がよく分からなくなるから」


そう言うと、おっちゃんは一瞬黙って、そのあと笑った。


「バカだな、坊主は」


おっちゃんはクシャっと笑って、手をギュってしてくれた。

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