第11話
ある夜。寝る前のこと。おっちゃんと一緒に布団潜って、お話してもらってた。
子供っぽいけど、俺はおっちゃんにお話してもらうのが好きだ。気に入った話は何度もしてもらう。
今日は何度目かの竜騎士の話を聞いた。たのしい。俺には娯楽が少ないから、こんなにも楽しいんだろうか。
お話が終わって、ウトウトしだした時。おっちゃんが俺の頬をフニフニした。
「坊主、おっちゃんは明日、仕事で帰りが遅くなりそうなんだ。ひとりで晩ご飯食べて、ひとりで寝られるか?」
今までも遅い日はあったけど、それでも8時には帰ってきてた。
明日はさらに遅いのか…。
「できるよ。晩ご飯、作ってみてもいい?」
一応提案してみた。料理したことないけど、料理してみたらそれも楽しいかもしれない。
が、おっちゃんの返事は想像通り。
「それはダメだ。日が暮れる前に、いつもの弁当屋で買うんだ。できるか?」
やっぱりそうか。そうだよね。まあ、お弁当屋さん好きだから何の問題もないよ。
「できるよ。イズルスペシャル頼むんだ」
「よし。エライな。じゃあそろそろ寝ろ」
おっちゃんはフニフニするの止めて、おでこをさすりさすりした。そしたら俺はすぐ寝た。おっちゃんのハンドパワー恐るべし。
次の日の朝。おっちゃんと手を繋いで朝の町を歩く。風がぴゅーぴゅー冷たい。
「本格的に寒くなってきたな」
「そうだね。寒いね。でも、おっちゃんの手、あったかいね」
今の季節、冬の初め?俺がおっちゃんに保護されたのが、秋の終わりの始まりくらい。多分。
「もっと坊主の冬服を買わないといけないな。手袋や耳当てもいるな。今度の休みに買いに行くか」
俺の手をギュッと握って、おっちゃんは俺に聞いてくれた。
だから俺は「行く!」と元気よく返事。そして、あっという間に洗濯屋の前まで来た。
今日は俺は仕事無い日なので、ここでおっちゃんとお別れ。
「じゃあ、今日は遅くなるからな。先に寝てるんだぞ。日が暮れる前に、弁当屋に行くんだぞ」
「うん。何回も言わなくても大丈夫だよ、おっちゃん、お仕事頑張ってね」
仕事に行くおっちゃんを見送った。早く帰ってきますように、と、おっちゃんの背中に念を送った。
おっちゃんの帰りが遅いと分かってるからだろうか。なんだか寂しい。
だから、家の掃除するときは歌を歌った。新聞読むときは無駄に大声で独り言を言った。
「そろそろお昼だな!」
それも大きい声で言って、キッチンのカゴを覗いた。パンをストックしてるカゴ。
「一個しかない…」
少ないからおっちゃんに言わなきゃって昨日も思ってたけど、忘れてた。おっちゃんも気付いてるけど、忘れてたんだろう。
まあいっか。晩ご飯のお弁当、イズルスペシャル大盛り食べればいいや。
ちょっと硬くなってるパンをガジガジして、そんで眠くなったからお昼寝することにした。
ベッドに入ってモソモソと布団に潜り込んだら、あったかいしおっちゃんの匂いするし、安心して眠れた。
そして、目が覚めると…。
「あっ…もう夜になってる」
眠りこけてしまった。慌てて時計を見ると、9時少し前。爆睡にもほどがあるってくらい寝てしまった。
日が暮れる前にお弁当屋に行きなさいっておっちゃんに言われてたけど…。もう完全に夜だ。
お弁当屋は諦めようかと思ったけど、お腹がぐーっと鳴った。
おっちゃん、ごめん。俺はお腹が空いた。
上着を着て、首から財布をかけて、てててーっと弁当屋まで走った。
この地域は街灯が無い。夜になると家の窓から漏れる明かりくらいしかない場所だから、夜は少し怖い。
ぜーぜーはーはーと息を切らしてお弁当屋さんのガラス戸を開けたら、お弁当屋さんの奥さんにビックリされた。
「イズルちゃん!こんな夜にどうしたの!?」
そんなにビックリしなくてもいいじゃんって思うくらいのビックリぐあい。確かに夜に外に出るのは少し怖かったけど、大丈夫だよ。
「今日はおっちゃん遅くなるから、お弁当買いなさいって言われてたんだ。でも寝てたら夜になっちゃった」
心配させまいと明るく言ったものの、今度は厨房から旦那さんが顔を覗かせた。
「夜に出掛けちゃだめって、アシオさんに言われなかった?」
旦那さんと奥さんが困り顔なので、俺の想像以上に夜出歩くのはいけないことなのかと思うに至った。
「ごめんなさい。言われたけど、お腹空いたんだ…」
旦那さんと奥さんは顔を見合わせて相談を始めた。
「ねえ、ひとりで帰らせるわけにはいかないわ」
「そうだなあ。送っていかないとダメだろうな」
この時間でも、お客さんはまだ何人もお弁当待ちしてた。俺の後にも続けて何人もお客さんが入ってきた。繁盛してる。俺は迷惑かけてる…。
「とにかく、できるまで待っててね。イズルスペシャルね」と奥さんに言われ、俺は所在なくお店の隅に立つ。
お腹空いても、外に出るんじゃなかった。
おっちゃんは帰ってくるの遅いって言ってたけど、おっちゃんは大丈夫なのかな。
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