第9話

仕事に行き始めてからの俺。


朝、おっちゃんと一緒に家を出る。洗濯屋に洗濯を出すけど、昨日預けたのはまだ受け取らない。


「今日は俺も仕事だから、また夕方取りに来るね。ばいばい、おばちゃん」


おばちゃんは心配そうに俺に「イズルちゃん、無理しないでね」と言ってくれる。

そんなに心配しなくても大丈夫だよ。


おっちゃんと手を繋いで、テクテク歩いていく。お別れするのは、大通りに出てから。

郵便局はすぐそこだけど、おっちゃんの仕事場はまだもう少し向こうなんだって。


「坊主、今日も頑張れよ」


「うん。おっちゃんも頑張ってね」


おっちゃんに手を振って、背中が見えなくなってから俺は郵便局に入る。

郵便局の仕事は、まだ慣れない。でもみんな親切だから、ここで仕事できてよかったって思う。


「イズルくん、おはよう。今日も頼むよ」


局長さんは俺の頭を手のひらでポフポフする。俺の頭がちょうどいい位置にあるのかな。

俺の仕事は、手紙を住所ごとに分けること。似たような住所とかあって、ときどきこんがらがる。

住所に悪戦苦闘しながら作業してると、声がかかる。


「イズルちゃん、そろそろお昼よ」


一緒に仕事してるおばちゃんたちに誘われて、いつの間にかお昼ご飯の時間になっていたんだと知る。

俺のお昼ご飯はパン。持ってきたパンをかじって、水筒に入れてきたスープ飲む。おいしい。

おばちゃんたちのお昼も似たようなもので、皆でワイワイ食べる。

俺には分からない話も時々あるけど、おばちゃんたちの輪に入れて嬉しい。


郵便局では、働いてる人が何人もいる。


「戻りましたー!」


そう言って郵便局に帰ってくるのは、手紙を回収に行ってたお兄さん。

お兄さんは「イズルくん、おいでおいで」と俺をコッソリ呼んで、いつもお菓子くれる。アメとかチョコとか。

俺はニマニマしながら受け取って、ポケットにしまいこむ。


「今日の分です!」


そう言って郵便局のドアを開けるのは、遠い町から届いた手紙を運んでくるお兄さん。

お兄さんは俺を見つけると静かに俺に手招きして、「ん、これ」ってお菓子くれる。クッキーとかキャラメルとか。

俺はそれもニマニマしながら受け取って、ポケットにしまいこむ。


局長さんをはじめ、みんな親切だ。だけどひとつだけ残念なことがある。

俺と同じ年齢の子はここの郵便局では働いてなくて、少し残念。友達できるかなって思ったから。


俺は子供なので、皆より先に帰る。

洗濯屋に寄って、昨日の洗濯物を受け取る。お弁当屋の前を通りかかるとき、お店のおじさんとおばさんに手を振る。


家に帰りついた俺は、おっちゃんの帰りを待ちつつ、新聞読んだり字の練習したり時にウトウトしたり。


そんなこんなしてたら、夕方。おっちゃんは帰ってくる。


「おっちゃん、お帰り」


「ただいま。何も変わったことはなかったか?」


「無いよ。今日もお兄さんたちにお菓子もらった。おっちゃん、どれがいい?」


お兄さんたちに貰ったお菓子をテーブルに並べて、おっちゃんにもあげようとした。

だけど、おっちゃんは俺の頭をわしわし撫でるだけでお菓子は手に取らない。


「自分で全部食っていいんだぞ。その前に、晩ご飯だ。今日は野菜炒めを作るからな」


「お手伝いする!」


俺のお手伝いはお皿を並べたりする程度だけども。

これでもかというほど、俺の生活は平和なのだった。

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