第6話
おっちゃんと暮らし始めて二週間ほど経った。
朝、おっちゃんと一緒に家を出る。ちなみに、いつも手を繋いでる。
俺が迷子になった日からずっと、一緒に外に出るときは手を繋ぐのだ。
冷静に考えたら何してんだって思うが、おっちゃんが過保護なので仕方ない。
「じゃあ坊主、あとは頼んだぞ」
「うん。任せて!」
洗濯屋の前で、おっちゃんと別れる。
おっちゃんはこれから仕事に行く。おっちゃんの仕事場は、もう少し遠いところにあるんだって。そのうち連れてってもらいたいな。
「おばちゃん、おはようございます」
俺はよいしょと今日のお願いする洗濯物をカウンターに乗せる。
「あらあら、今日もご苦労様。イズルちゃん、えらいわねえ」
洗濯屋のおばちゃんはニコニコして、昨日預けた洗濯物を渡してくれた。そんで、アメをくれた。おばちゃんはいつもアメくれる。
「おばちゃん、ありがとう」
そんな会話をしてたら、他のお客さんが来て「おや、かわいいね」って言われて頭を撫でられることも日常茶飯事。
できれば女の人に頭を撫でられたいけど、洗濯屋を利用するのは一人暮らしの男の人ばっかり。残念。
アメを舐めながら、綺麗になった服を抱えて家に帰る。ひとりで帰る。
家に帰ったら洗濯物を所定の場所にしまって、今度は掃除。
掃除機は無いので、箒とチリトリ。床をサッササッサと掃く。これはすぐに終わる。狭い家だから。
そのあとは、新聞を読む。
おっちゃんは今まで仕事場の近くで新聞を買って、読んだらすぐに捨ててたらしい。だけど俺が新聞読みたいってお願いしたら、持って帰ってきてくれるようになった。
つまり、俺が毎朝読む新聞は、昨日の新聞なのだ。それでも問題はない。
「昨日の夜、南地区6番街7番通りで強盗事件がありました。騎士団第一隊が近くを警備しており、強盗はすぐに取り押さえられました」
記事をひとつ読むと、俺は地図を引っ張り出して場所を調べる。
ちなみに、地図もおっちゃんに買ってもらった。
「6番街7番通りってややこしいなあ。南地区はここか…。強盗は怖い…。あっ、家の鍵をちゃんと閉めとかないと」
そんな風に独り言を呟きつつ、俺は新聞を読む。
この世界のことをひとつでも多く知るために、俺は新聞を真面目に読む。
夜、おっちゃんが早く帰って来た日はおっちゃんが料理作ってくれる。
遅い日は、おっちゃんがお弁当買って帰ってきてくれる。
新聞を読んでて分からなかったことをおっちゃんに聞いたり、俺が今日は何をしてたかおっちゃんが聞いたり。
そんな感じで夜は更けていく。
おっちゃんが忙しくない限りは同じ時間にベッドに入る。もうすっかり一緒に寝る仲だ。
「おっちゃん、お話して」
俺はおっちゃんにお話をねだる。
この世界の童話や昔話。
桃から生まれるでもなく、亀を助けるでもなく、ガラスの靴が脱げるでもなく。
だけど、悪者を倒して英雄になったり、不幸な女の子が王子様に見初められたり。そんなとこは共通点がある。
今日聞いたお話は、少年が卵拾ったらその卵はドラゴンの卵で、少年は竜騎士になったって英雄譚だった。
ウトウトなりながら最後までお話を聞いて、ほへーっと声を漏らした。竜騎士、カッコいいなあ。
「坊主は今までこんな話を聞いたことなかったのか?」
「…ウン。小さいときはあったのかな。覚えてない」
子供の頃、親は読み聞かせしてくれてたと思う。記憶にないが。
いや、おっちゃんは今そんなこと聞いてるんじゃないな。
皆が知ってるであろう昔話を俺が知らないことに驚いてるんだな。可哀想に思ってるんだな。
「…覚えてないけど、でも。今、おっちゃんがお話してくれたのは、大人になっても忘れないよ」
俺がそう言うと、おっちゃんは俺のおでこをさすりさすりした。
もうおやすみなさいの合図。おっちゃんのさすりさすりの効果はすごい。癒しのハンドパワー。
俺は安心して朝までグッスリ寝ることができる。
そんな感じで、俺はこの世界を満喫してる。だけど、おっちゃんのハンドパワーで眠くなりながらふと頭によぎること。
そういや俺、学校に行かなくていいのかな?
働いてもいないけど、いいのかな?
…よくないよなあ。
まあ、一歩ずつ頑張ろ。一歩一歩。
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