第4話
朝ご飯を食べたあと、お出かけする準備。おっちゃんは俺に服と靴をくれた。
「昨日買ってきたんだ。サイズ、合うか」
ちょっと大きかったけど、おっちゃんが着せてくれた服はモコモコしてて暖かい。
靴は…。かなり大きかった。
「靴は…すまんな。少しだけガマンしてくれ。あとで買いに行こう」
服と靴が嬉しくて、俺はうひゅって笑った。
そしたら、おっちゃんは大きい手で俺の頭をわしわし撫でた。
「おっちゃん、ありがとう」
おっちゃんは俺の靴を一回脱がせて、そんでつま先の部分に布を詰めてくれた。
これで歩けないこともない。
「気にするな。よし、じゃあ行くか」
そう言ったおっちゃんは、サンタクロースみたいに袋を肩に担いだ。
「それは何?」
「これ?洗濯物だ。洗濯屋に出すんだ」
「俺がしようか?洗濯、できるかな。やればできるかな」
きっと手洗いだろうな。
洗濯機のボタンを押すこともそんなに無かった俺が、果たして手洗いできるだろうか。
そう思ったけど、俺も家のことしないと。
「いいんだ。坊主はそんなこと気にせんで大丈夫だ」
「そうなのかな…」
「ほら、行くぞ」
おっちゃんに背中を押されて家を出た。朝日が当たってるアパートは、やっぱりボロだった。
最初に来たのは、洗濯屋さん。洗濯を代行してくれる店だって。
「あら、アシオさん。その子は?」
おっちゃんはこの店の常連のようで、お店のおばちゃんとも顔見知りのようだ。
「ちょっと預かってるんだ。ほら、挨拶できるか?」
おっちゃんに促され、ニコニコしてるおばちゃんに名前を名乗る。
「はじめまして、イズルです」
名前を言うと、おばちゃんはますますニコニコした。
「かわいいわねえ。坊ちゃん、お菓子をあげようね」
なんか分からんが、アメもらった。
「ありがとう、おばちゃん」と、お礼を言い、すぐさまアメを口に入れた。甘くておいしかった。
次に来たのは靴屋さん。
狭い店内は天井まで靴の箱が積み上がってた。崩れたりしないのかな…と、心配になってると、お店の奥から店員さんが出てきた。
「あれ?アシオさん。昨日はどうも。今日はどうされましたか?」
この店もおっちゃんの行きつけのようだ。店員さんはおっちゃんの名前を知ってた。
「昨日の靴は坊主には大きかったんだ。坊主の足に合う靴をくれ」
靴屋のお兄さんは俺を椅子に座らせて、履いてる大きい靴を脱がせた。
「あらら…。小さなあんよだね」
あんよ…。ここにきて、おっちゃんからだけじゃなくて、靴屋の兄ちゃんにすら完全に幼児扱いされる俺。
「これなんかいいんじゃないかな。ほら、暖かいだろ?」
靴屋のお兄さんは俺に靴を履かせてくれた。これはサイズぴったり。
そんな感じで、おっちゃんは二足も買ってくれた。
「お腹空いたな。そろそろお昼だ。何か食べたいものあるか?」
「食べたいもの…」
ハンバーグと言って伝わるだろうか。伝わらないかな。
俺が何を食べたいか言えないでいたら、おっちゃんが困ったように笑った。
「屋台を見て回ってみるか。少し歩いたら屋台街だ」
おっちゃんと一緒に歩く。保護された時とは違う気持ちで街を眺める。今はのん気にあれは何だろうこれは何だろうと興味津々でキョロキョロ。
「坊主、迷子になるぞ」
おっちゃんは時々俺の肩をぽしぽしして、はぐれないように注意してくれた。
そんなこんなで、屋台街に辿り着く。ここは人ごみだった。
いい匂いがいろんなとこからする。おいしそー。
いろいろ目移りする俺に、おっちゃんは「ほら、これなんか美味そうだぞ」ってホットドッグみたいなの買ってくれた。
近くの公園に移動してベンチ座って、おっちゃんと一緒に並んで食べた。
みんな大柄だからから、ホットドッグもでかい。でもおっちゃんはあっという間に食べた。
おっちゃんすごい。俺はおっちゃんに比べると、ちまちま少しずつしか食べられない。
そんな俺を急かすことなく、おっちゃんは待ってくれた。
俺が服にパン屑を落としたら、おっちゃんはその都度払ってくれた。俺はもう子ども扱いされても気にしなくなってしまった。おっちゃんの優しさを享受するのみ。こんなんでいいのかな。
「ごちそうさまでした」
おっちゃんに遅れること十数分、俺も完食。ホットドッグを包んでた紙をきれいに畳んで、よーしと思ってると、不意におっちゃんが俺に質問した。
「なあ坊主。街を歩いてて、何か見覚えのあるものはあったか?ここは見たことある、来たことある、とか」
おっちゃん…。俺がどこの子なのか、手がかりを見つけようとしてくれたのか。
そのためのお出かけなのか。
俺はフルフルと首を横に振る。
「そうか…」
おっちゃんは難しい顔になった。
…おっちゃん、俺を可哀想だと思って家に連れてってくれたけど…。
一時の同情心を後悔してるのかもしれない。
服も靴もご飯も、お金かかるもんね…。俺が家に帰れればいいって思ってるのかも。
「そろそろ帰ろうか」
おっちゃんは俺の頭をわしわしして、よいせと立ち上がった。
俺も少し遅れておっちゃんについていく。
おっちゃんの背中を見て、心の中では焦りが生まれた。
この謎の世界に来てしまったけど、何とかなるかなって楽観視してた。
保護者も後ろ盾もなく、下手すりゃホームレスだけど。それでも親切なおっちゃんに拾われたし、番所に連れてってもらえたし。親のいない子には施設があるんだって分かったし。
…俺はやっぱり施設行きかな。
まだたったの三日だけど、おっちゃんに親切にしてもらったから、このままおっちゃんに世話になりたい。
で、ふと気づくと。
気もそぞろで歩いてたせいか、おっちゃんの姿を見失ってしまった。
人が多くて、しかも俺はみんなより小っちゃい。
紛れもない迷子になってしまった。
俺はどっちから来たんだろう。どこに行けばいいんだろう。
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