STEM

 …………フ、と。


 目が醒めた。

 夢を見ていた。

 一瞬、どちらが夢でどちらが現実かわからなくなる。

 白い天井……個室コンパートメントのものではない。どこ。ここは……病院。

 僕の手術はとうに終わった筈……いや、違う。そんな奴はもう居ないのだ。


 それは夢だ。わたしの夢。


 妾が妾でなかった頃。妾がまだ、あの憎たらしい男だった頃。

 妾はついにあの男からこのカラダを取り返したのだ。

 よく見れば白いと思った天井は薄汚れて、隅の方は闇が棲み着いたように黒ずんでいる。あの公認病院とは違う。

 腹がズキリと痛む。昔の入院着のような簡素な服をたくし上げると、そこには二つの傷があった。一つは白く、一つはまだ赤い。

 白いのは妾が死んだときの、赤いのは妾が再び生まれたときのもの。

 この腹に妾の子宮は戻り、股にぶら下がる忌々しい肉塊とそれに繋がる臓器は取り去られた。

 妾は二度もあの男に殺されたのだ。一度くらい、同じようにして誰が責められようか?


 そうさ、一度では済まさぬ。


 傷が癒えたら、すぐに準備を始めねばならない。

 膣は新しく成形したから、使い物になるよう仕込みが必要だろう。

 実際、あのひとは手慣れた様子であったのだから。

 準備が済んだら、あの男に会いに行く。

 そうして、また一からやり直すのだ。

 今度は、妾があの男を喰らってやる。

 こんなツギハギでない、真実ほんとうの女のカラダで、次こそは妾が生まれてくるのだ。


 それが妾のたった一つの願いなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る