第3話 バス降車口 13:45

胸から甲高いオルゴールのような音が響く。

そういえばメールの着信音を最大のレベルにしたのを思い出した。メールの着信は一瞬なのではじめはその音が気に入って設定したはずなのに。いったいどんな曲だったか忘れてしまった。昼時に暇だったので聞いてみようと思ったとき。音量が真ん中だった。別にすぐに出るわけではないし、極端な話聞こえなくてもいいわけだが。そのときどういう訳か最大音量に設定してしまった。おかげでところかまわず甲高い音が響く。


到着まであと十五分・・・時間どおり。

待っててくださいね


                    とメールが入った


オッケー

おなかすかしてきた。

                   と返事を入れる


人妻と独身男とのメールだ。

メールは便利だ。

終電に乗って一車両に十人くらいしか乗っていないとき。そのうちの八人が携帯を見つめていたことがあった。いまどきは珍しくないとは思いつつも、何てひどい世の中になったんだろうと思ったが、自分もメールをしているので、あまり人のことを言えなくなってしまった。

メールの便利なところは。電話をかけるほどの用事も必然性もない。でも様子が知りたいなんて場合。とてもいい。


あなたとはもう二度と会うことはないと思っていた。

十年前、初めて実家を出て豊橋に転勤した。

そこであなたと出会った。

あなたは現地採用の社員で、東海地方限定でそのエリアを出ることはなかったから全国転勤を繰り返す私とは元々接点はなかった。

そうなかったのだ。

いつしか私はあなたのことが好きになった。その好き、はこれまで生きてきて初めての

(好き)、だった。人を好きになったことは何度となくあったし、付き合った女性がいなかった分けでもない。でもそれまで軽々しく言っていた愛と言う言葉が実はひどく軽く、うすぺらな、なんら実態のない感情だったことを、あなたを出会って分かった。

あなたのことを本当に愛すると、あなたの触ったものや関係するものの全てがいとおしくなる。あなたが存在していることを喜び、あなたをこの世に誕生させてくれたことを神に感謝した。

しかし結局私が転勤をして。そのままになってしまった。いつしか私はあなたを私の心の神殿に閉じ込めて、日々を過ごし、あなたは私以外の男と結婚した。私もあなたも普通に結婚するにはぎりぎりの年だった。あなたは三河を出たくなかったから、私の転勤がもう少し後だったら、私たちは結婚していたかもしれない。

すでに結婚していれば。三河を出たくないと言っていたあなただって、私の転勤についてきてくれただろう。つまりは私の押しが足らなかった。きっとここ一番で足踏みしてしまったのが私の最大の失敗だ。


最後にあったのは三年前だ。政策発表会で東京に集まったとき。ほんの十分くらい立ち話をしただけだった。

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