女性の体調不良
「先輩、あんなこと言って大丈夫なんですか?」
美術室からの道中、心配そうな顔をした春樹が問いかける。
「あんなこと?」
「ほら、見つけてやるって」
「あ~、あれか。気にするなただの探偵部の宣伝だ」
大したことは無いと顔色一つ変えずに答える撫子。
「宣伝って、見つからなかったらどうするんですか」
「さあな」
「さあなって」
「なんにせよ、見つければ問題ないだろ?」
無責任なのか解決できると確信しているのかは謎だが、撫子からは焦りは見られない。
「そうですけど」
逆に春樹は、まるで前日の夜に母親に体操服のゼッケンを頼むのを忘れていたことを思い出した時のような焦燥感にかられていた。
「でも、今までに何か手がかりみたいなのってありましたっけ」
友雪も流石に解決への道が見えず、撫子に問いかける。
「それがな~、引っ掛かる事はあるんだが、今一つ何か足りないんだよな~」
「なんですか!? 何が引っ掛かてるんですか!?」
撫子の回答に目を輝かせて、思わず声を上げる乙葉。
「~~っ! いきなりでかい声を出すな!」
「えへへ、ごめんなさい。で、何が引っ掛かてるんですか?」
「言わん、どうせ面倒なことになるからな」
「そんな~、そんな事言わないで教えてくださいよ~」
「ダ・メ・だ!」
「え~!」
どうやら撫子は、乙葉を面倒事を呼び寄せる性格だと危険人物認定したようだ。
「あの~、何してるの?」
そんなやり取りをしていると、一行に声をかける女性の声が聞こえてくる。
「ん? あれ、みっちゃん?」
乙葉にみっちゃんと呼ばれた女子生徒は、目の前で起きている状況が理解できず困惑している。乙葉はその様子を気にすることもなく「奇遇だね~」とその女子生徒に駆け寄る。
「・・・おい桜野、あのみっちゃんて誰だ」
乙葉が女子生徒に絡んでいる間に、撫子が春樹に説明を求める。
「えっと、同じクラスの三好さんです。俺も話したことは無いので詳しくは」
「そうか」
撫子はそれだけ言うと、目の前の三好と乙葉のやり取りに目を向ける。
「それでみっちゃん、どうしたのこんな時間に。いつもなら帰ってるよね?」
「う、うんちょっと袖のボタン取れちゃって家庭科室で直してたの。乙葉ちゃんは?」
「私はちょっと調べ物をね。あ、そうだ! みっちゃんは何か無くなったものとかない?」
「無くなったもの?」
「そう、今日クラスで何人も何かを無くしてるんだよ。それを調べるために探偵部の先輩に依頼したの!」
「そんな事があったの? それにた、探偵部?」
探偵部の名前が出たところで撫子が一歩前に出る。
「私がその探偵部部長の長月だ」
「は、はぁ・・」
三好もまた見た目と行動がちぐはぐな目の前の少女に困惑していた。
「最初は誰でもそう言う反応になるよな~、わかるわかる」
その光景を見て、昔の事の様に初対面の時を思い出す友雪。
「んで? お前は何か失くしたか?」
ずいっと覗き込むように見上げながらの撫子の質問に、まだすべてを飲み込めたわけではないが、一応三好が答える。
「いえ、私は何も・・・」
「・・・・」
「そっか~。そういえばみっちゃん体調は大丈夫?」
反応を示さない撫子を余所に、乙葉が雑談を始める。
「体調?」
「うん、みっちゃん今日お昼の後体調不良で保健室行ったよね」
「ああ、うん。でも大丈夫。ただの貧血だから」
答える三好は恥ずかしそうに答える、その視線はちらちらと春樹や友雪に向けられている。
「あっ、ああそっかそっか! ならよかった!」
それで察したのだろう、乙葉がわざとらしく会話を終わらせる。春樹達は頭の上に?を乗せているが…
「じゃあもう帰るの?」
「うん、教室で荷物まとめて帰るよ」
「そっか、じゃあまた明日ね!」
「うん、また明日。桜野君と九条君もまたね」
すっかり蚊帳の外だった男二人にも律義に挨拶する三好。
「ああ、さよなら三好さん」
「気をつけてな~」
三好は挨拶を済ませると撫子という先輩に気を使ってなのだろう、軽く頭を下げてその場を去って行った。
「ふぅ、結局進展なしか」
三好を見送り、聞き込みの成果を一言でまとめる春樹。
「もう明日にするしかないのかな~」
「・・・・」
「先輩?」
黙ったままの撫子に気づき、春樹は彼女に視線を落とす。そこにはうっすらと笑みを浮かべ、ひびの入った眼鏡をかけた撫子がいた。
(ひび割れた眼鏡?)
「見えた・・」
そのつぶやきを隣にいた春樹は聞き逃さなかった。
「見えたって…ひょっとして、何か分かったんですか?」
「え、マジで?」
「ホントですか!?」
春樹の言葉に他の二人も同時に反応する…しかし
「はぁ? 分かるわけないだろ?」
撫子は何言ってんだ? と一蹴する。
「え、でも先輩今」
「お前の聞き違いだろ、それより私は寄るとこがあるから先部室戻ってろ。」
「ちょっ、どこ行くんですか?」
「…女の私から言わせるつもりか?」
踵を返し一人どこか向かおうとする先輩に、納得の春樹は説明を求める。
それに対し撫子はわざとらしく恥じらいながらも非難の目を彼に返す。
「わ、分かりました」
男である春樹はそれ以上の追及を許されなかった。
同時に、彼が女性の怖さを改めて知った記念すべき日でもある。
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