第4話 sensyu-raku~part2~

アタイは今すき家で張り込み真っ最中。ほんとはオイリーなちゃんこ鍋を食べるべきなんだろうけど、それはそれこれはこれ。

「お待たせいたしました。チーズ牛丼メガ盛サラダセットですね」

腹が減ってはなんとやら。

育ち盛りのJKならなおのこと。ましてアタイはメイド喫茶どすこいの看板娘。ワガママボディに磨きをかけるためにも、目の前のこやつを瞬殺する。ただなぁ、ちゃんこ鍋じゃないから喉の潤いがなぁ……。

「アタイ、二つ頼んだんだけど」

アタイに品を運んで、我先にと厨房に戻ろうとする店員についトゲのある言葉を投げつけてしまう。

もう3日だ。

アタイからギャートルズ焼きを奪った……いや、アタイのハート事ギャートルズ焼きを持ち去った根暗眼鏡(悪口)が失踪してから。

空腹も、恋しさも、空腹も限界だった。

「す、すいません。聞き違いかと……」

「謝るのはいつでもできるでしょ? ほら、早いとこ持ってきなさいよ。あと三杯とデザートにアイスと、あ、メロンソーダも。ついでにちゃ……トン汁! 急ぎで」

 アタイがなぜ24時間営業の牛丼屋に24時間張り込んでいるのか、なぜカウンターではなく厨房の影の方で他の客の目を気にすることなく廃棄寸前の牛丼を脅迫してかっ食らっているのか……。

 それは何となくあいつがここに来るのではないかという野生の感。つまりは千秋楽的なものをここに感じたからなのだ。

「はい、お待たせいたしました。追加のチーズ牛丼メガ盛りサラダセット(廃棄予定)です。……ってか帰ってもらえません? いい加減」

 バイトリーダーを名乗るこの男は、アタイに敵意むき出しで睨んでくる。

 なんの因縁か知らないけれど、地球のためにこうして再生可能エネルギーを使ってやってるこの良心の塊たるアタイにけんかを売ろうってんだから大した度胸じゃないの。

「バイトリーダーだかカードリーダーだかファッションリーダーだか知らないけど、あんたの接客がなってないせいで廃棄寸前の迷える子羊をアタイがこうして活よ……」

 アタイの読みは当たっていた。あいつだ。根暗眼鏡(悪口)がカウンター席にすっわっているのが三好EYE’Sに映った。しかもあいつもアタイと同じチー牛を食おうとしているらしく、チーズがないと店員が厨房で嘆いてる。ほんと、あのメガネは空気が読めない……、でもねそう言うところもアタイは……。

「またチーズかよ……。もうねぇぞ……。どうすんだよ」

 バイトリーダーを名乗る大学生が大きなため息をついて、股割しながら牛丼をかっ食らうアタイを見下ろす。

 当然アタイはそんなもの屁でもない。そんなことを気にしていては立派な力士になんてなれるわけがない。と、アタイは思った。けど……。

 根暗眼鏡(悪口)の観察とどんぶりに入った最後の米粒との間で揺れ動くアタイの切ない恋心……。

 アタイは、女として、力士として、人として、根暗眼鏡にアタイ用にとってあったチーズを分けてやるべきなんだろうか……。

「リーダー、もうこれ出しちゃいましょうよ。だいたいなんでこいつにこんなに飯食わせないとならないんすか?」

 その一言に、アタイの理性は飛んだ。

ーーーー走馬灯がアタイの脳内に駆け巡る。

ーーーーいいかい? 三好。これは医者たる私との約束だ。もうこれ以上この技を使っちゃいけないよ? 


 先生ごめんさい。アタイ、行かなくちゃ。約束を、一度だけ破ります。


 人はいう。カレーは飲み物だと。たとえそれに固形物が入っていようが。

 ならばこの牛の肉もそうではないか……。


「り、リーダー……あいつ牛丼を……!!」

「何やってんだあんたぁ……!!」

 三好流三食快食術奥義!!

 アタイは全筋肉を利き腕である右腕に寄せる。そして、目いっぱいの力で丼の中のそれらを箸で混ぜる。人にはこの行為が早すぎて見えないらしいけど、こうすることでたとえ中に小石が入ろうともそれら一切灰燼となす。

 そして腕の回転で舞起きる風が上昇気流となり、それらが宙に舞う。

 今だ!!

 アタイは腕の全筋肉を頭部に移動させて、それらを「吸う」

 黒引力ッッ!!!!!

 味なんてもうどうだっていい。

 廃棄寸前なんてそれももうどうでもいい。

 ただ、今あるのは渡してなるものかという底知れぬアタイの……アタイの、業「食欲」

「お前らに……やるものなんて、何も……ない……。よ、こせ。アタイの……」

「……ヒッ」

「そこまでだ三好道山!」

どこかで聞き覚えのある声が、アタイを悪魔から引き離し、現実へと連れ戻してくれたんだ。どこか懐かしい、ちゃんこ鍋のような声……。

「知り合いの店長から見たこともない獣が店に入り浸って商品を荒らしているっていうから来てみれば……。ったくあれほど技を使うなとドクターからもストップされたろうが!! 死にたのか!」

 アタイはどうかしていたんだ……。滝ノ海先輩というフィアンセ(妄想)がいながら、アタイは根暗眼鏡(悪口)に色目を……。修業が足りていない。

 数発先輩に殴られて、ようやく我に返ったアタイは泣きながら最後の一粒を口に運ぶ。だっておいしいんだもん。

 すっかり泣きはらしたアタイに根暗眼鏡(悪口)は何かに恐れるかのようにあわてて店内から逃げる。

 四股を踏みながらアタイもあわてて追おうとするも、先輩に阻まれてしまう。

「三好、そんなに食べてなんになるっていうんだ? お前にはちゃんこがあるだろう?」

 私はもう一つ忘れていた。アタイにはちゃんこという故郷があることを。

 私には、滝ノ海先輩がいるという事を。

「帰ろう三好。こんばんは俺の家に泊まると良い。ちょうどちゃんこも作っていたところなんだ」

 次回、アタイはついに先輩の家に上がることに。そして、二人きりの夜のぶつかり稽古が始まる。

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