第2話

なんだ、これは

声が出ない、いや出せない。あまりに呆気なく、恐ろしく一瞬に未知に放り出され硬直する、と思えばすぐに力が全身から抜け落ちその場にへたりこむ。腕に猛禽は居ない。着ていたブラウスは制服じみていてそれでいて少し違うものに変わっていて、見上げれば見慣れたはずの空に瞬きが無数見えている。

草の香りが鼻を、頭を突き抜けては夜の冷たい空気が脳を覚ましていく。

「私、何かしたのかよ。なぁ。」

やっと出た声も僅かに震えて情けないものになっていた。新生活という未知を目前にして、予測すらできない未知以上のナニかを前に乾いた笑いしか出てこなかった。ははっ、笑えよともはや虚勢を張るどころか自虐の言葉しか出てこない。

十分ほど経った頃だろうか、こうなるとは思わず腕時計は付けてこなかったため正確な時間がわからないが大体それ程だと思う。

何かが疾駆するような音が聞こえる。ようなというのは、自然風とは思えない草の擦れる音こそするが地を蹴る振動は足元には響かず大地を力強く踏む音も、何も聞こえない。届かない。

そしてまた数分ほど経ち、風だと思ったものは風切り音に。それも二つ程が別方向から別角度に向かってひっきりなしに何かが飛んでいる。そして唐突に、膠着は解かれた。

「……くぅっ!?」

低く屈んだ自身の体に、横からの衝撃が突如として加わり体が吹き飛ばされる。すぐに衝撃の元凶を探して草をかき分ける。吹き飛ばされた場所から一メートル程離れたか、そこには似たような服をした同じ年ほどの少女が言葉にならない呻きを発してうずくまっている。

「なぁっ!お前は何者だ、ここは何処だ!さっきからのこの風切り音はなんだ!応えろ、答えろよぉ!」

ありったけの疑問で畳み掛ける。もはや痛みのせいで心の沸点は意味を成してなく、ぶつけたものの半分は最早苛立ちだ。

「貴女、今はっきりと目は見えるかしら……風景の影やある程度の色は、認識出来るかしら。」

「っ!?一応月明かりはあるからある程度景色は見えるが!?それがどう」

「話は、少し後だ。一旦ここを離れる。私の胴体を、しっかり捕まえろ。」

ぶつかったダメージのお陰かはたまた別の理由か、彼女は息を切らし言葉もたどたどしくなっていたが意思の疎通は出来ている。安心した、ここは言語の通じない異世界ではないし転生も転移もしたわけではない。

「今から私は『飛ぶ』。その目で見える障害を、全て私に明示しろ!」

その言葉と同時に、私たちは【加速】した。

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