第3話 異界力とは

 その世界は輝かしい虹色に溢れていた。

 その光景の世界のフィールドに僕は立っていた。

 よーく見ると地面は将棋盤であった。

 遥か向こうには籠手爺が立っていた。

 右足と指が復元されていた。


「よく聞くんじゃ、わしの世界では体を何度でも復元できる。この世界には練習モードと戦闘モードに分かれており、練習モードだと何度死んでも大丈夫でよみがえる。しかし戦闘モードで死ねば生身の肉体は消滅する」


「あの、僕には意味が分からないのですが」

「その小さな頭で考えろ、この力は異界力と呼ばれている。わしは絶望という淵からこの力を手に入れた。星に選ばれたのだ。お前も星に選ばれたのならお前の力があるはずだ。よーく創造するんだ」


 僕は小さい頭で考えだす。

 異界力、あれだ中二病的なやつだ。

 よくアニメとかコミックである超能力ものなのか。


 僕は辺りを観察する。 

 僕と籠手爺がいる場所は将棋盤で言う所の王様がいる場所だ。

 籠手爺の陣営には兵士がいる、頭に歩とか角とか車とか書かれている。


 僕の陣営にはそれは存在していない、僕が戦う必要があるようだが、力の使い方がわからない。


「わしの寿命は長くない、ヒロシロよお主に全てを託すぞ、わしが一人で見出した力将棋世界ボードワールドでな、世界型と呼ばれている。異界力には無数の属性が存在している。世界型は世界を構築してしまう事、わしは将棋の世界を構築できる異界力なのだよ、まぁ基礎から説明するから座っていろ」

「はい」


 それから僕と籠手爺の場所は相変わらず王将がいる場所で待機しながら、会話をしている。

 まるで世界そのものが声となって僕に話しかけてくれるので、籠手爺のしゃがれた声は僕の耳に響いていた。


「まずは、異界力には主に攻、守、速、必、心の5個があると思ってくれ、星に選ばれたということはその星の異世界の力を使う事が出来るという事。その世界から溢れるエネルギーをこの5個に応用できる。必は今わしが使っている将棋世界ボードワールドじゃ覚えておくように」


「籠手爺、攻、守、速、心はどういうものですか、必は分かった気がしますが」


「よろしい、見本を見せよう」


 籠手爺は王将の場所から前に進んだ。自分で召喚した歩兵に殴りかかっていった。

 

「まずは速」

 

 籠手爺の前進から溢れるエネルギーが僕の瞳にはうつった。

 あれが星の力なのかと感動していると。

 ほぼ何も見えず歩兵の背後に着地していた籠手爺。


「次に守」


 籠手爺に向かって剣を振り落とす歩兵に籠手爺は右手だけでシールドを展開した。


「次に心」


 籠手爺は深呼吸をしている。

 歩兵は籠手爺を殺すかの勢いで迫ってきていた。

 それでも籠手爺は身動きすらしない。

 籠手爺は鋭い瞳で歩兵をにらむと。

 歩兵はフリーズした。


「次に攻」


 籠手爺は右手を構えると、走り出した。

 足にも攻をかけていて、ジャンプする。さらに速もかけてスピードをあげ、一瞬で歩兵を爆砕していた。


 僕は唖然と見ていた。


「わしはこの世界を構築するだけで大変じゃった。この世界には攻、守、速、必、心を多種多様に使ってくる奴らがいる。必にはさらに色々なものに分かれる。わしの世界型の将棋世界ボードワールドだけでも覚えておけ」


「では、修行を始めようではないか、ヒロシロ君」


 その時の籠手爺のほほ笑みはどことなくサディスト軍曹に見えた。


 その日から残された数日の間に僕と籠手爺は修行をするようになった。

 籠手爺の将棋世界のすごい所は異空間と現実世界の時間を変える事が出来るということだ。


 なので現実に戻ても5分しかたってないとしたら、将棋世界では1時間いた結果になったりする。


「わしはな、妻がおってな、息子が3人おるんだがのう、奴ら大阪で暮らしておるんじゃがのう、わしの出来心で韓国に不倫相手がおってなそこにも娘がおるんじゃよ、妻にばれて、離婚してなぁ、不倫相手がおったんだが妻も愛しておってな。初めて一人になっちまうとな、とても苦しくて切腹したんじゃが死ねなくてな、とりあえず車を運転して病院に行ってな、死ねないんじゃがどうしたらええかと聞いたらな、お腹から内臓がでちょるんよ、笑ったなぁ、あまりにも興奮してたから痛みを感じなくてな、即刻手術したんじゃよ、かーまったく中途半端に死のうとしたらあかんのう」


 僕が一生懸命に修行をしている傍らで、籠手爺は熱心に語りかけてくれていた。

 イメージ力が大切らしい。5個の種類があるがまだまだ存在する可能性があると籠手爺は説明してくれた。


 この異界力というのは籠手爺が名付けたのではなく、力に目覚めた時、頭にある異世界から教えられたとのこと。


 頭にある異世界ってなんだよと心の中で思わず突っ込んでいた。


 イメージ力には座禅がよく、歩というか見るからに歩兵なのだがそいつに僕が動いたら木刀をたたかせるように指示して、本人は昔話で僕の注意を散らそうとしている。


「基本はな、戦いながら集中するもんや、わしの発言を聞いて取り込みスルーするその術を学ぶ必要があるんじゃよ、そうじゃったな、わしが自衛隊にいたころな、空気鉄砲ってのがあってなこれは極秘なんじゃが、人の体に穴をあけられるんじゃぞ、わしはびっくらこいたもんじゃねぇ」


 だんだんと僕の意識は集中していく。

 頭の中では小学生の頃の友達だけど友達ではない人々がいる。

 彼らは僕を利用しようと考えている。

 周りはそれは考えすぎだという。

 だが現実に利用されていた。


 僕の世界ってなんて小さいんだろう。

 世界は大きくて広くて、大勢の信じられない人達が不幸になていく。

 僕なんかが不幸になったってなーんも支障がない。

 僕が不幸になろうと世界は周り続ける。 

 なら僕は幸福になったって世界は周り続ける。

 蝶が羽ばたき、遠くの場所で竜巻が起ころうとも、それをバタフライ効果と呼ぼうとも、カオス理論が無限に枝分かれるする未来を示そうとも。


「僕は僕だ」


 そこには無数の玉が浮いていた。

 否、玉ではない、サッカーボールが浮いていた。

 

 僕は父親との繋がり、弟との繋がり、妹との繋がり、母親との繋がり。

 そういったものがサッカーボールには秘められていて。

 7つのボールがぷかぷかと浮かび上がっている。


「で、出来ました」

「素晴らしい、そろそろ来るぞ」


 籠手爺の言った通り、それは突然降りてきた。

 頭の中に降りてきたそれは世界そのものだった。

 無限に広がる世界、僕が見ている世界は剣と魔法とドラゴンの世界。

 巨大なドラゴンが空を飛翔している。

 いたるところで大勢の兵士が死んでいく。

 僕の頭の中に一つの異世界が収まっている。


 その異世界から異界力というエネルギーを僕はもらう。

 そして僕は強くなっていく。


【汝に異界力を授けよう】


 僕の心の中で響き渡るその声。

 まるで暖かい神様のような囁きだった。

 突然目から涙がこぼれた。

 ぼろぼろと涙を流している。

 全然泣いてこなかったのに、つらかったことや苦しかった事が無数にあったのに。

 本当は一人ぼっちがいやだったのに、一人ぼっちになって悲しかったのに。 

 強がって世界の為とか、言って。僕は自分一人すら救えないのか。


「素晴らしい、その力に名前をつけよ、あと必はいろいろと覚える事が出来るが、とても難しいとされている。わしは将棋世界が限界じゃったな」

「僕はこの力をレインボーボールと名付けます」

「ふぉふぉふぉ、いい名前じゃ、攻、守、速、心はわしが教えた座禅を忘れないように、時には実践が覚える可能性があるがな、おぬし才能あるな、一番難しい必から覚えるとは」


「もうくたくただよ」


 僕はその日現実世界の体に将棋世界から戻ると、深い眠りに入った。

 不思議だった頭の中に世界が広がっているなんて、どういう原理なのだろうか。


 あの突如増えた空に溢れる星達は実態がなく、人間達の頭の中に入ってきた。

 検査では異常がないが、それでも結果的には異常があると言っていいだろう。


 独学で籠手爺のように習得した人がいるくらいだ。

 世界は広くて恐ろしい。この世界がパニックに陥ってくるのも時間の問題だろう。


 僕は一人で色々なことを考えて、寝坊した。

 朝飯を抜きにされたが、籠手爺のベッドは綺麗になっていた。

 荷物も一つも残っていなかった。

 

「看護師さん、籠手爺さんは」

「籠手さんは大阪の実家に戻りました。奥さんがお世話するようで」


「そ、そうですか」


 心の中で、籠手爺よかったですねと囁いていた。

 それからこの病院から100人以上の星に選ばれた人々が解放された。

 僕はなぜか広汎性発達障害だから田舎のグループホームで暮らす必要があるとか、グループホームとはいえ一人一人の部屋があり個室になっている。トイレとか風呂もそれぞれにある。


 という情報を児童相談所の人がやってきて教えてくれた。

 名前を覚えるのも面倒だったが、体の大きな男性が一人で話し方がうまかった。

 もう一人は靴下を履いていない女性で、結構美人だった。

 

 僕は疲れ切った脳味噌で父親の運転する車に乗っていた。

 父親と母親は病院に迎えに来てくれた。

 だが実家に戻るのではなく田舎に送る為に来たそうだ。

 2人は心配そうにこちらを見ていた。


 母親は児童相談所の人といろいろと相談して、悩みが解決したのか僕を殺そうとしてきた頃の母親ではなくなっていた。

 まるで太陽のように笑う暖かい母親になっていた。

 両親が心配しているのは僕というよりかは弟の事だった。

 弟は小学5年生だが、僕と同じように引きこもるようになり、ゲーム三昧になっているそうだ。


 両親がゲームを取り上げると、弟が暴れたりしたそうだ。

 僕も弟が心配だったが、会いに来てくれないと、会いに行けなかった。

 僕は何もできないけど、いつか来るべき時に助ける。


 僕は心に誓った。


 僕はあの感動的な異世界を見てから心が変わりつつあった。

 なんでも殺害はよくないという当たり前な考え方になっていった。

 しかし復讐だけはきっちりとこなそうとも思っている。


 両親は耳が聞こえない。

 それでも一生懸命育ててくれたが、だからこそ僕たち兄弟妹は手話を覚える必要があった。


 しかし僕たちは覚えてこなかった。

 口の動きと手の動きで伝える事ばかりだった。


 父親と母親とあまり話が出来ず。

 目的地に着いた。

 本当に森ばかりで、畑ばかりであった。

 乗馬フロンティアもあったしコンビニが1軒だけであった。

 小さな集合住宅が無数に広がっている程度。

 人っこ1人歩いていない。


 本当に田舎だ。

 

 場所は厚村区と呼ばれる場所だ。

 厚村中学校があり、そのまま厚村高校がある。

 人口が少ないが、地元の農家を目指す学生が多くいるそうだ。


 車から降りるとそのグループホームが見えた。

 1階が活動センターのような場所で、ご飯を食べたり、パソコンをしたり映画を見たりする場所。

 2階が小部屋になっており5部屋の調理の部屋があるくらいだそうだ。


 しかしその建物はグループホームにしては大きいなと思った。

 ここで僕の第二の人生が始まる。

 また引きこもり生活なんてできない。世界を変える支配者になる。

 そして異界力という力を手に入れたのだから。

 籠手爺ありがとう。

 心の中で囁いた。


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