第4話 スローライフ
グループホームでの生活を始めて一週間が経過した。
厚村中学にはまだ通っていない。最初の1週間は厚村区に慣れてもらうためにグループホームの職員が休日を取らせてくれた。
父親と母親は日用品など必要なものやその他諸々を車に積み込んで運んできてくれた。
籠手爺から教わった座禅の修行は続けている。
普通の座禅と違うのは体の内側から異界力を引き出すイメージをする事であった。
毎日それを繰り返してイメージで攻・守・速・必・心を頭の中で再現している。
今思えば籠手爺の世界型の異界力には驚かされたものだ。
籠手爺のようにこの力を極めれば大きな力として使えるのではないだろうか。
僕のスローライフはテレビゲームをして、夜中に小さな公園にてサッカーをする事だ。
普通と違うのは、そのサッカーボールが7個あるという事だ。
七つの色に輝くボールは蹴ったりイメージする事で操作する事が出来る。
これが何型なのか僕には理解できていなかった。
そんなスローライフはようやく終わり、僕の一番苦手とするコミュニケーション力が活用される中学校に行かねばならなかった。
その日の週末、窓から見える夜空には無数の星々が光り輝いている。
今も星に選ばれる人は続出しており、救急車はあちこちを走って、毎回星に選ばれた被害者を隔離しては検査する。
中には死ぬものもいるがほとんどが異常なしとされる。
僕のように広汎性発達障害が見つかったり病気が見つかったりするのはまれではない。
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厚村中学校登校日
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季節は春だった。桜につぼみが実り始めてきた。
春休みはまだだったが、少し厚村中学に登校してあっという間に中学三年生となってしまう。
僕はそんなしょうもないことを考えながら、グループホームの近くにある中学に向かったのだ。
そこらを歩く中学生どもは田舎に暮らしているだけあってよそ者には敏感だった。
周りの視線にさらされながら、職員室にたどり着き、一人の先生と出会った。
顔中がひげ面のおっさんで眼鏡を付けている。
「お、おはよう、今日からヒロシロ君の担任の先生になる作山だよ、よろしく、趣味はCD集めで、弟と一緒に暮らしている。給料はCDに消えるよ、弟からは音楽狂なんて呼ばれてるけどね」
作山先生は初めて会ったとは思えないほど次から次へと言葉を発してくれた。
「よ、よろしくお願いします」
「聞いてるよ、君は引きこもりだったらしいね、人間が苦手かい? それとも学校が嫌い? まぁいいんだけど、なぜ中学に通ってみる気になったんだい?」
作山先生は次から次へとマシンガントークをし始めた。
それに対して僕はしどろもどろになりながら答える。
「僕は力を手に入れました。力があればなんでもできると思ったからです」
「ほう、あれかね、中二病的な力のやつかね、そんな力は何の役にも立たないよ、この世界は頭がいいもので成り立つ、いくら力があろうと知恵には勝てないものだ」
「そうなんですよね、僕の思う力はその力ではありません」
「ほう、奇妙なことを言う生徒だ。まぁ、まずは友達を作る事から始めればいいと思うぞ」
僕は大きくこくりと頷いた。
地元の中学には地元の知り合い達がいた。
彼らは僕の過去の事を知っていて、僕が同級生の悪口を言いふらした事になっている。
本当に悪いのは僕や友達からカードを盗んだあいつだ。
しかし、僕の心にはやり返してやりたいという気持ちが無かったと言えばウソになる。しかし僕が言わなければ被害者は増えていた。
そんなドロドロの世界からまったく知らない田舎の厚村区で第二の人生が始まった。
僕は時期外れの転校生として2年B組に入ることとなった。
黒板の前に立たされた僕は作山先生のジョークを生徒達が爆笑して聞いていた。
クラスメイトは全員で10人程で、5クラスあるので合計50人いる事になる。
男性が4名と女性が5名で、僕が入る事で10名となる。
皆の視線は僕に注がれている。
作山先生の指示の元、僕は自己紹介する事になった。
「僕の事はヒロシロと呼んでください、よろしくお願いします」
何かかっこいいことを言えたらいいけど、そう簡単に言えるものではなかった。
皆が拍手してくれると、僕は一番後ろの席に着いた。
左側には窓があって外の風景を観察する事が出来る。
ごく一般的なグラウンドがあって、その向こうは森に囲まれていた。
ここが田舎である事を再認識させられた。
しまいには小さな山があって、神社があった。
大きな看板があり、津波が来たらここに避難とも書かれてある。
確か近くに海があったような気がした。
「では、今日は実習とする。適当にやりたい勉強をしてくれ」
作山先生が教室の外に出ると。
女子1名と男子1名が近づいてきた。
「ねぇ、君さ、都会から来たんだよね、都会ってどういう所なの」
その女子はロングヘアーでほっそりとした顔立ちをしていた。
中学の制服がとても似合う可愛らしい女子と言ったところだ。
「都会はあまりいいことないよ」
「そうなんだ。お兄ちゃんが言うには都会はモンスターが沢山いるんだって、モンスターにたとえた人間なんだって」
「まぁそんな所かもしれないよ」
「そうだ。わたしね名前は
「こちらこそよろしく」
次は男子のほうだ。その男子は茶髪の髪の毛をしていて、いわゆるやんちゃをしそうな不良タイプだった。
「おう、よろしくな、都会のほうはどうだった。星に選ばれたとかってやつの星の落下の話、こっちもすごかったぞ」
「ああ、都会もそんなもんだよ」
「そ、そうか、お前なんか冷めてるな」
「なんだろう、色々と見てきたらだけどそんなのは皆同じなんだよ」
「俺もそう見えるか?」
「君だってかっこいいんだよ」
「そ、そうか、俺は
「ああ、よろしく」
結局僕に話しかけてくれた男女は吉村さんと中村君くんだけであった。
その他のクラスメイト達は僕の存在に気づかぬように学生ライフを送った。
それからグループホームに帰宅してゲームして座禅して寝て起きて中学に行っての繰り返しの生活が始まった。
僕にとってこんなスローライフは信じられないくらいありえない暮らしだった。
いつも誰かを憎み恨み殺意を抱き。
心が張り裂けそうになりながらも僕は立ち続ける。
どこかに飛び散ってしまいそうな感情を爆発させてはいえけないと毎日思った。
その日僕は相変わらず夜中に誰もいない公園で異界力で出現させたサッカーボールを操作したり変形させたりする練習をしていた。
最近ボールをトゲトゲボールに変形させる事が出来るようになった。
少しずつ僕の力は成長している。
その日はいつもと変わらない中学校の日だった。
違うとしたら全校生徒が僕をじろじろと見る事だった。
偶然学校の提示版コーナーに着いた僕は信じられないものを見つけた。
それは暗闇の中、灯の光を受けて7個のサッカーボールを操っている僕の写真が張られていた。
僕の脳みそから血の気が引いた。
そこには堂々とこう書かれてあった。
【こいつは星に選ばれた超能力者だ。この厚村区から出ていけ】
僕はとっさにその提示版に張られてあった紙を引き裂いてぐちゃぐちゃにしてからゴミ箱に捨てた。
3時限目の授業が終わってまた提示版に戻ればまた紙が貼られてあった。
「気にすんなよ、どうせ合成だろ」
そう言ってくれたのは中村くんだった。
「この厚村区にいる人達は都会を憎んでるからね、都会人を差別してんだろ」
中村くんがそう教えてくれた。
彼はどうやら見た目的に不良少年だが、中身は好青年のような少年なのだろう。
だが僕へのいじめはエスカレートしていくのであった。
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