第2話 広汎性発達障害


 意識が混濁していた。

 深い眠りではなく浅い眠りに入っていく感じであった。 

 その間に色々な機材を使って僕の体を精密検査していたようだ。

 両腕と両足には沢山の注射痕が残っていた。


 意識がはっきりすると、ベッドで横になっていた。

 腰を浮かせてベッドで座りながら書き物ができるような机が設置されていた。


 辺りを見回すと、他にベッドが右と左と前と前右と前左にあった。

 合計6個のベッドがあり、全てが埋まっていた。

 

 右のベッドの隣には車いすがおかれ一人のお爺さんが寝ていた。

 はっとなって気づくと病室の時計は朝方の5時になっていた。

 夏の季節の為に熱いので一人一人を隔離するようなカーテンは開かれていた。

 病室にいる人々に風がいきわたるようだった。

 左にはとても体が大きい男性がいた。首元に入れ墨のようなマークがついていた。

 前のベッドには誰もいなかった。だが確実に誰かがいた痕跡がある。

 飲み物のコップがおかれてあったり。

 右上のベッドには本などが積まれていた。

 50代のおっさんが寝ていた。

 左上のベッドには真面目そうな眼鏡をかけた男性が寝ていた。

 なぜか物入には紙おむつばかりがあった。


 僕はこの現状が意味不明だった。

 空から落ちてきた星が頭に直撃した。

 その後救急車でここに運ばれたようだし、一時は死んでいたようだ。

 一番の謎は頭の中に映像として映し出された異世界。

 あれが異世界なら、僕は言ってみたいと思っていた。


 僕は一人のヒロシロとして冒険してみたいと思った。

 だがふと気づくんだ。僕は幸福になってはいけない、僕は他人を幸福にして僕自身を不幸にするんだから。


 なんとなく再び眠りについた。


 その日から病院生活が始まった。

 日用品などは父親と母親が持ってきてくれた。

 広間でただテレビを見て過ごしたり、この病院だけでも100人の人物達が星の直撃を食らった。


 皆は国家権力によって強制入院させられた。

 ちなみに僕の真向かいにあたるベッドの持ち主は亡くなっていた。

 原因がわからず、病院はあわただしい事になっていたそうだが、その頃僕は昏睡状態に入っていた。


 僕は暇で暇で仕方がなかった。

 もう1か月がたとうとしていた。

 まだ中学2年生なのに、とか思ったけど家に引きこもるくらいならここで入院していてもさほど変わらない気がした。


 しかしゲームが出来ないのはとてもつらい事だった。

 なによりサッカーにはもう興味はなくなっていた。


 僕の日課はひたすらテレビを見たり読書したりする事だった。

 実は僕は読書が大嫌いだった。

 しかしあるドラゴンの小説に興味を抱いて母親と父親に買ってきてもらった。


 それはファンタジーの世界を主人公がドラゴンに乗って冒険して成長していく話であった。


 そんな世界があったら行ってみたい。 

 しかし僕の心は憎悪に満ち溢れていて、人々を助けて人々を破壊しないと心がドス黒く染まりそうだった。


 その日は医者との面談であった。


 病棟から古めかしい部屋に案内された。

 そこはどことなく消毒液の匂いがした。

 なんとなくいい香りだと思った。


「わたくしは黒田と言います。君の担当になりました」

「はい、よろしくお願いします」


「君の体を事細かく検査しましたが、どこも以上が見当たりませんでした。実は謎の星に直撃を食らった人物は全員異常がないのです。国としてはこれ以上強制入院させる訳にはいかないようでして、順番に退院してもらう事になりました」


「ほ、本当ですか」


 僕の心はわくわくに満ち溢れていた。

 自分の不幸がここまでつらいものだとは思わなかった。


「しかし、体にはどこも異常はないのですが、一つの障害が発見されました」

「それは何ですか」


「広汎性発達障害というものです。アスペルガー症候群でもあります。あなたは普通の人とは少し違う、または特殊な人間だとわたくしは認識しております。わたくしの認識では広汎性発達障害の人は確かに人には劣りますが、何かの才能があると睨んでいます。ですので、こちらで親御さんと相談し田舎の施設で暮らしてもらいます」

「それは拒絶する事は出来ないのですか」


「はい、出来ません」


 僕は心の中で爆笑していた。

 僕は皆と何かが違っていた。

 だからと言って天狗になるつもりはない。

 僕は皆より劣っていて、僕は皆より優れていた。


 家に帰る事はさほど重要だとは思っていなかった。


「中学はどうするんですか」

「田舎に中学がありますのでそこに通ってもらいます」


 どこも容赦なく周到に準備されていた。

 何が障がい者を差別しないだ。

 発達障害だから田舎で施設で暮らせ?

 僕はゴキブリか何かなのか。


 怒りがふつふつと溢れてくる。

 そうだ。こいつを殺そう、田舎に行って強くなって殺そう。

 こういうやつらを殺して殺して殺しまくってやる。


「では、残り1週間病院生活を送ってください。退院しても二週間に一度は通院に来てもらいます」

「はい」


 僕は疲れ果てた戦士のように消毒液臭い部屋から退散した。


 大勢の患者が集まる広間で僕は机に両腕を載せて右手と左手の指を使ってくるくると回転させてちあ。


 頭の中では自問自答が始まっていた。

 実はこの1か月、よくわからない理由で入院させられたストレスから人格が形成し始めていた。


 まず1人目がブラッドリーという名前の怒りの人格となった。

 次に2人目がテッドという名前の殺人の人格となった。

 次に3人目がサイエンスターという名前のゲーマーの人格となった。

 次に4人目がコミュニティーという名前の交渉の人格となった。

 次に5人目がイーターという名前の暴食の人格となった。

 次に6人目がガンドという名前の読書の人格となった。

 次に7人目がジョイドという名前の楽しむという人格となった。


 僕の頭の中には100人から融合を果たした7人の人格となった。

 人は絶望的な状態に陥ると、どうやったらその状態をストレスなきものに出来るかと考えるのだろう。


 僕はいつも一人ぼっちだった。それでも僕は話し相手に依存していた。

 僕は100人の名無しと話していた。それだけでは満足できず。僕は100人を融合させて7人に絞った。

 

 いつしか彼等には名前が存在していた。

 別に僕自身が多重人格だって自慢する訳ではない。

 僕の話し相手、勝手に創作した僕だけの人格たち。

 そいつらと永遠とも思える議論を重ねていた。

 机の上に乗っている右手と左手の指遊びが高速になっていくと。

 突如として声をかけられた。


「お前さんヒロシロだってな、ほな、わしと将棋でも指さんかね」


 老人は車椅子に乗っていた。

 右手で将棋を指すポーズをしていた。

 にこにことした優しそうな老人であった。

 右足がなくなっており、右手と左手の指があちこちかけていた。

 

 不器用に動かしながらも僕と将棋を指すことになった。

 将棋はあまりやった事がなく、僕は老人にこてんぱんにされた。

 なんか悔しいから何度も挑戦した。

 それでも老人はふぉふぉふぉと笑って勝負していくのだ。


 将棋のバトルは白熱を極め、しまいには老人が指導してくれるようになる。

 僕は老人と将棋をするのが大好きになっていった。


 ベッドに戻ると、右隣のベッドには老人が車椅子から器用に降りて横になっていた。


「わしはな籠手こてというもんじゃ、大阪では籠手爺と呼ばれていたよ。ヒロシロ君は将棋が好きかい」

「はい、籠手爺さんが教えてくれる将棋は面白いです」


「君の瞳はまっすぐに相手を貫いている。それは危険な目じゃ、わしは元自衛隊におってな、そういう目をした奴はまっすぐすぎて我を失う。我を失いそうになったらわしの教えを思い出すんじゃ」


「はい」


「ほな、明日も将棋やろうな」


 僕は次の日、再び籠手爺から将棋を指導してもらった。


「そろそろじゃな、今から起きることは異界力というものじゃ、驚かんでくれよ、わしの難病で体がもげていく病気なんじゃ、わしは星に選ばれた。じゃが命は長くない、なら異界力の力を教えちゃるのう」

「は?」


 僕は唖然と口を開いて驚き。

 次の瞬間、世界が暗闇に包まれ、世界は虹色の世界に覆われた。


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