第7話 別の何か出た ──初めての夜──
戦い終った二人は体力を消耗し尽くしていた
ユウナは打撃のダメージが大きく、コウは初めての発動で虚脱感が極限になっていた。
なんとか馬小屋に戻ったときには、夕刻を超えて夜になりかかっていた。
彼女が救急箱から取り出したのは、絆創膏だった。
「これはポーションパッチといって、回復魔法のヒール系と同じ効果があるの」
「へ、へえー」
コウは初めてのことで感心して声が出た。
魔法でぱぱっと治すと思ったら、ちょっと違うようだ。
「治りがちょっと遅いんだけどね」
彼女はそう補足する。
「ちょっと説明書見せて」
コウが絆創膏の箱書きを読む。
──なるほど。
これは治癒のパッチプログラムなのか。
それを充ててダメージ回復させる訳と理解した。
「瞬間に治せるヒール系魔法持っていないし、その手のポーションや
そう述べる彼女の説明を聞いて驚きを隠せない。
──自営で三割負担とか、魔法の世界なのに医療費世知辛すぎるんですけどー。
コウは思わず口を押さえて嗚咽を漏れるのを防ぐほかなかった。
「消毒液はこれよ」
差し出された瓶を見る。
中には乳白色の液体が入っていた。
振ってみると少しとろみがあった。
「卵の白身、蛋白質に消毒用のバクテリアが入っているのよ。バクテリアが雑菌の繁殖を抑えてくれるからずっと傷まないで保存できるの。それに無害だから良質な蛋白質として非常食にもなるわ。美容にも良いといって肌に塗る人も居るくらい」
そう説明してくれた。
ユウナは身体のあちこちを消毒し、順にパッチを当てていく。
太ももに張るときはその付け根とその奥にある布地が見えて、コウは慌てて視線をずらしたのを彼女は気がついて、ちょっと悪戯っぽく微笑んだ。
それは少女の屈託のない笑み──ではなく、もっと大人の香りが混じっていた。
「こっちは自分で出来ないから──」
そう言ってから、ユウナは後ろを向いて上着を肩脱いでみせた。そして、「お願い」と伏し目がちにお願いした。
少女から女の顔になっていた。
さっきまであどけない、そして活発だった少女が、ずっと年上の女性に見えた。
──少女って化けるんだ。一瞬で、変わるんだ。
コウは初めて見た。
少女が大人に変貌する瞬間を、いま立ち所に見た。
彼の目の前にユウナの白い背中が広がっている。
二の腕の隙間から、まだ小さいとは言え膨らみかけた胸まで見えた。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、僕が張るの?」
純朴な少年が、美少女のあられもない柔肌を見たら、それを直に見たら、立ち登る匂いを感じたら、冷静では居られなくなる。居られる筈がない。当然のことだった。
コウが震える手で消毒液のガーゼを肌に当てる。
「あっ」とユウナがのけぞる。
「ご、ごめん。染みた?」
「ううん、大丈夫よ──」と間を置いてから、「優しくね」
大きめのパッチに持ち替えてから傷口の上にそっと張る。
「ん、く」
ユウナの眉間にしわが寄った。
その行為を何度か繰り返し、目についた背中の傷すべてを張り終える。
「終った」
「まだよ──」
ユウナは上着の部分を全部脱いで、それを落とした。
上半身から腰までが露わになり、胸を片手で隠しているものの、ほぼ全裸になった。
「──下もお願い」
「え、え、え、えええええーっ」
コウの髪の毛が逆立った。
血圧が急上昇する。
心臓が早鐘のように脈打つ。
降圧剤を飲まないと危険なレベルにまで達している。
メディークッと叫けんで、医者を呼ばないといけないヤツだ。
「お願い」
そう言ったユウナは目を閉じ、何かを待っていた。
消毒用のガーゼを持つ手が震えるなんてもんじゃなかった。
手に目の焦点が合わない。
視界が幾重にもなり、ぼける。
人間、血が頭に登ると、ここまで視界がぼやけるのかと知った。
「あぁっ──」
腰の尾てい骨の部分、そこに消毒ガーゼを当てた瞬間、ユウナが仰け反った。
目を閉じ、ほほを桜色に染めながら。
「い、痛かった?」
コウが初めてのことでうろたえる。
「大丈夫、そのまま続けて、大丈夫だから──」
決意をのべる、彼女の肩が震えていた。
行為を続けている間、ユウナは目を閉じてじっと耐えている。
時折、何度もうめく吐息がコウに冷静さを失わせた。
汗が浮いて、それが滴り落ちる。
一番最後の傷は大きく、そこの処置はちょっと大事になった。
ちなみに処置とは、もちろん消毒である。
ユウナは何度も身をよじり、頭を左右上下に振った。
さっきまで白肌の健康的な少女の姿が、いまは桃色に染まり、艶めかしいくびれを纏った女の体つきに見える。
そして一生懸命に耐え、吐息が激しくなる。
彼女が小さいけれど、長い余韻を伴った悲鳴を上げる。
必死に耐えているけれど、受け入れるという感情が込められている。
コウが行為をためらう。
「大丈夫。大丈夫だから……んあっ……このまま……くっ……最後まで……お願い」
髪が顔にかかり、その奥に見える瞳は湿りを帯び、何か決意のような色を湛えていた。
「いくよ」
コウも真剣な表情で最後までやり遂げるつもりだった。
汗が止めどもなくしたたり落ちる。
消毒液のビンが倒れ、乳白色の中身が迸った。
長く、長く、それはとくとくと流れている。
そして流れきったとき、二人は仰向けに倒れて肩で息をしていた。
何とか最後までやり終えた。二人は完全に体力を消耗していた。
初めてのことで無我夢中で、よく分からなかったけど、なんとか手探りけで完了した感がある。
その満足感だけは残った。
──ちゃんとできたかな。次はもっと上手くできるかな。
コウがそう思ったとき、
彼女の口が小さく、「バカね」といった。
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