第6話 また何か出た ──デス・レイ放出──

「コウ、右手どうしたの?」

 か細い声でユウナが訪ねる。

 彼女を支えている彼の腕、その右手が細かく振動して、そして熱を帯びていた。


「さっきからヘンなんだ。右手が何かおかしいだ」

 そう差し出した掌が鈍く赤く光っている。


「たぶん、シークレットだ」

 そう弱々しく言うユウナだけど、彼女も確証はなかった。


 しかし、言われてもコウはどうしたらいいのか分らない。

 だから胸中の焦りをつぶやく。


「だけど使い方が、発動の仕方が分からない」

「スキルワードが発動のトリガーよ。頭の中に浮かんでいる言葉がそれ。さあ言うの、貴方のワードを。それがシークレットの発動」


 彼女のその指示で、頭の中で描かれた気がした。

 腕の中がざわめく、細胞がふつふつと沸き立っている感じがする。

 うぶ毛が逆立ち、右手から小さく唸りが聞こえる。

 やはり、これは右手から発射する何かだ。


 ──分かった、あれだ。あれを発射できるんだ。この僕が、あれを。


 思考が惹起じゃっきする。

 回路が繋がった。

 体内の細胞回路セルサーキットが完全に脳裏に描かれた。

 だから、その鈍く光る掌を相手に向けた。


 対象を見定めようと顔を上げる。

 その先には追跡者が居た。

 走ることなく、ゆっくりと歩いている。

 ユウナの打撃により、足の片方をダメージを負っている。

 それで歩みが遅かった。


 彼女、ユウナの攻撃は決してムダではなかったのだ。

 こうして思考を整える時間を、状況を把握する時間を、貴重な時間を紡いでくれた。


 追跡者が立ち止まってたじろいだ。そんな気がした。

 今の今まで感情というものを表に出さなかったそいつが、コウの差し出した手を見て立ち止まり、ほんの僅かたじろいだ。

 それから猛然とダッシュした。


 コウを止めないととんでもないことになるという、焦りが見えた。

 今すぐにその行為を止めるのだという決意が現れていた。

 そんな追跡者の焦りを見ているコウの腕の中が小刻みに振動している。

 掌の発光が増してゆく。


 ユウナが決意を促す。

「さあ、言って、貴方の言葉を」


 それを受けて、コウの表情に決意が宿る。

「もう分かった。完全に感知した」


 ──誰だか知らないけど、どんな理由があるのか分からないけど、女の子にあんな仕打ちをできるヤツはこの世に在ってはならないんだ。


 息を吸い、強く思う。

 自分の回路を強く頭に描く。そして言葉を吐く。


『体内電荷制御

 我の身体を流れる電子よ

 セルキャパシタに集中せよ

 集中

 集中

 そして放出

 放出して加速せよ

 加速

 加速

 電子は光速なり

 我、電子を加速せり

 死光線放出デス・レイ!』


 コウが決意を込めてその言葉を口にする。

 死を司る言葉を発する。

 その時、そのまばゆい光が最高潮に達した。

 と、空気が揺れた。


 ブオンッ。


 低い唸りを伴った何かが、腕の中を通り抜けてゆく。

 掌から赤い光線が迸り、目標めがけて突き進み、至近距離まで来ていた追跡者を包んで通り抜けていった。


 標的となった男は、声を上げる間もなかった。

 そして光線が通り抜けた後には、何も残らなかった。

 追跡者は上半身から下を残してかき消えてしまったのだ。

 残った下半身の切断面が完全に炭化している。

 高温の放射なのは確実だった。

 やがて、敵の残った肉片がばたりと倒れた。


「コウ、あなた何を発射したの?」

 ユウナが驚きを口にする。


 彼女の知る光線魔法、例えばライトニングセイバーなどは、もっとエッジがぎざぎざしている。雷の電導魔法だから、どうしてもそうなる。

 でも、コウの発射した光線はもっと真っ直ぐで、エッジがあった。


「僕の発射したのは電波だ」

 そういった彼は肩で息をしている。


「電波?」

 電波って目に見えないんじゃないのかなって、彼女、ユウナは思った。


「そう電波だ。電場と磁場が織りなす波動現象、それが電波の仕組みというか、原理」

 そこでいったん言葉を切る。

 呼吸を整え、つばを飲み込む。

 そして続けた。


「でもただの電波じゃない。出力を上げるとイオンと反応、プラズマ化して高温の可視光となって突き進む。それがデス・レイ、死の光線と呼ばれるものの正体だ。僕の発したのは、それだ」

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