【最終章】きれいになったね。
父のフェイスプレートは割れていた。硬化テクタイト製で直撃弾を受けても壊れない歩兵用の防護具が木っ端微塵に吹き飛んでいる。当然、その中身も相応のダメージを受けている筈だ。
「お父さん!」
私が駆け付けた時、父は傷一つない顔をこちらに向けた。
「メア…無事だったか」
「お父さん!」
私は自然と涙ぐんだ。一体何か起きたか考える余裕はない。ただただ、父の笑顔が私の視界を曇らせる。胸がきゅっと締め付けられるように熱く燃えて風呂上がりの夜風に髪を梳かすように名状しがたい気分に満たされた。
「何がどうなったかわからない。ただ一つだけ確かな事がある」
「私だって何が何だか。でも、お父さんが無事でよかった!」
父はよろよろと立ち上がり、バックルのボタンを操作した。マブセ大佐名義の鎧がばらばらと剥がれ落ちる。そこに立っているのは家にいる父だった。
「少し見ない間に…とは言ってもつい最近だが。綺麗になったな」
父は改めて穴が開くほど私を見つめた。顔から火が出そうだ。
アンが手鏡を貸してくれた。
ほんとう、不思議。ニキビ跡や顔の窪みがきれいさっぱり消えている。
「カリフォルニウム弾頭が美麗ウイルスの変異に作用したのでしょうか…」
駆け付けた軍の衛生兵が父を担架に乗せる。
「君、そんな野暮な詮索は無用だ。メア・マブゼは私の自慢の娘だ。すっかり美人に成長した」
「お父さんこそ。ちゃんと私に向き合って、いい顔になったじゃない」
「すまなかった。私は他人の反応を気にしてばかり。惨めな自分の顔すら見たくなかった。そして家族の笑顔を見失った」
私は言いたくはなかったが、父に渋い顔を作らせた。
「だったら、お母さんにどのツラさげるか考えて」
「厳しいな…」
マブセ・マブゼは破顔した。そして*やアンに協力を求めた。
「証言してくれるね。マリ所長の洗いざらいを」
「もちろん、喜んで証人になりますよ。彼女の泣きっ面を法廷で見てみたい」
そしてマリは執務室で四方八方から銃口を向けられ血相を変えた。
フェイセス faces 水原麻以 @maimizuhara
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