グッドモーニング・アバタモ

『ジェルの投下までにお帰り。もう一度だけチャンスをあげる。αは残念だった。他人の鑑賞を気にしないお前の勇気が百面相の機能美を完成させるの。誰もが羨む、そして誰にも化けられる美人になれるよ』

いくら甘言を連ねようと一皮むける人間態なんか欲しくもない。Δは精神感応を遮断した。半鱗人であろうと自分の姿は自分で決める。彼女には当座の目標があった。

この私だ。囮にしてマブゼを釣ればマリ所長の悪事を暴露できる。見返りは元の姿だ。そんな危険も知らず私は街をほっつき歩いてた。


顔面解放軍と特殊部隊と脱獄囚の三つ巴が始まった。囚人はマリが蓄えた榴弾砲や対空火器を持ち出して天界の空爆に徹底抗戦した。その合間を縫って輸送機が離着陸する。

「急激な美化は顔面皮膚細胞の悪性化を招きます」

マリの手先は言葉巧みに美麗ウイルスを住民に接種していく。ジェルによる容赦ない浄化を生き延びれば高性能の百面相になる。その真実を知らぬまま鈍感な私はアナウンスを聞いてのろのろと避難を始めた。

「戦争になってるなんて…」

「大丈夫、早くワクチンを受けて船に乗りなさい」

臨時診療所の職員はリラックスした表情で私の静脈を探った。作り笑顔に騙される所だった。


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