地獄で最後の晩餐を

ちろちろと固形燃料がカレーを溶かしている。地下に溢れる生活臭は香辛料でも完全に消せない。

「友達っていったじゃない」

短い白衣に短機関銃を構えた一団と会敵した時、マブゼの機転が彼女を救った。「フフッ。お前が大佐のお相手かい?参ったね」

*は関係を勝手に深読みしてアンの参加を認めた。所長が百面相に執着した隙をついて地獄民を救う名目で集団脱走した。そして彼女は怖ろしい報せを持ってきた。

「隠し事は嘘つきと同類なの。マリは会社を強請る材料を造ってた。美醜戦争の再燃を装って各惑星に戦争を仕掛け、瞬時に制圧できる怪物を。自分と組むか歯向かうか選択を迫る腹積もり」

*の顔がみるみるうちに曇る。

「そんな事になってたなんて。あたし達は顔面偏差値なんて下らない価値観を破壊しようとしてた。百面相の支配を許したら永久に下を向いて暮らす羽目に…」

「上は美麗ウイルス強奪囚殲滅の部隊を地上に降ろしてる。ワクチンと称して全住民を毒するためにね!」

アンが怒りに戦慄いた。

「もうお終いだよ!」

*は銃を捨てて泣き始めた。

「お前の守りたい物は何だ。*に家族はいるのか?」

マブゼは彼女に決意を問うた。

「不細工を理由に強制動員されたのよ。家族は音信不通。アバタモに愛着はないけど新天地と決めて馴染んでた。子供は落ち着いたら産む予定だった。顔の傷をコソコソ隠さなくてもいい社会にしてからね…」

「そうか…」

マブゼは顔面プレートを掻いた。「俺は逃げてきたんだ」

「知ってるよ。キョロ充のマブゼだろう。パレード中にビビって顔面偏差値が落ちた。不審者と思われた。それで船がお前を強制射出した。パイロットを失った船は…」

「そんな役柄じゃないと怖気づいたんだ。男は40を過ぎたら顔に責任を持てというのにな」

「家族の笑顔は二の次かよ」

聞き捨てならない。父は*を締め上げた。

「顔で物事の善悪が決まる世界にウンザリだ。それはお前もだろうが!」

*はガタガタを奥歯を鳴らした。

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