【第四章】死出の旅路

どす黒く濁った液体に爪や長い黒髪、そして眼球が浮いている。ねばつく狂気の水槽に異形の群が沈んでいた。

「別嬪さん揃いだねぇ」

三白眼が細くなる。マリは刑務所を私物化して非倫理を試みていた。四肢の生えた百面相を創造したのだ。複眼で状況を把握して光学的に環境と合致する変幻自在の新生物。

「人間社会を逸脱したお前達に安全快適な旅を約束するよ。もう審美眼に怯えなくていい。女が強く生きる為には恐怖と対峙し、打ち勝つ事さ。その為には持ち前の従順さを逆用して変化すればいい。お前は仲間を売ったね?Δ」

半身を鱗に覆われたビキニ姿が鎖をじゃりじゃりと鳴らす。

「女にとって一番の恐怖は衆目さね。お前はあっさり周囲を切り捨てた。その調子だよ」

百面相の一体がΔに歩み寄る。「さぁ、もっと勇気を…」

突然、マリが怪物になぎ倒された。

「n…ぬぅ…逃げて!」

野太い声が脱出を促す。

「貴女…αなの?」

目を丸くするΔに他の元女囚が襲い掛かる。

「逃げて!教わった通り、細工した」

「α」

「元気で。さようなら。綺麗になってね」

どっと濁流が四方八方から噴出した。怒号と阿鼻叫喚が渦巻く中、Δは必死に泳いだ。

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