【第三章】美獣と調教師
「世界はシンプルで美しい1つの公式が率いている。秩序だ。大宇宙の意思に背いたお前達に存在理由はない。だが人は慈悲を与える叡智を持つ。贖罪の機会をやろう。死ぬまで美に貢献するのだ」
掃溜めで貫頭衣の女達が泥を峻別していた。ψ鉱山の廃物から砂金を漁っている。美醜戦争の敗者は惨めだ。不潔な飛沫が顔に酷い腫物を増加させる。目鼻の判別も困難な女達が激務の愚痴をいう。
「ブスに産めと頼んでない」
「美人の基準って何?単なる自己中でしょ?」
「じゃあ、貴女は美人だと?」
女の世界で平等の不文律はガラスより危うい。ちょっとした言葉のあやが髪の毟りあいを招く。
「貴女達ねぇ!」
ボス格気取りのαが二人を諫めた。掃溜めの鶴になればいい。
陳腐な説教に女囚達が反発した。あんたは無期懲役でいいが私達は終身刑だ。腐った水を吸いながら惨めに枯れる。
そうしてαを袋叩きした。見かねたΔが仲裁に入る。αの彼女だ。
脱獄のチャンスがあるという。懲罰房は刑務所中枢の一角にある。そこに下水を注入すればマリが蒼白する展開になる。Δは先週、問題を起こし、排泄物の除去を一人でやらされた。その際に排水機構を全て把握したという。
「そんな事できるの?」
「Δは軍の元技師よ」
「皆でやらかしましょう!」、とαが提案するが却下された。
「アンタとΔが入れば?」
「仕方がないわね…」
Δは故意に違反し、仲間を共犯にした。
「監視カメラに祈りを捧げてどうなるの?」
マリは往復頬打した。もうΔの顔に平地はない。
「はぁ?掃溜めの鶴?笑わせんな。象徴を想像して心が洗われたら刑務所は要らねーんだよ。妄想が罪を忘れさせてくれるとでも?ざけんな!」
「人の心は誰にも汚せません」、とΔが呻く。
「仲間を売っただろうが」
マリのブーツがβやγの顔を蹂躙する。
「そうだわ…」
彼女は足を止めた。「性根の腐った子の顔に塗る薬があるわ」
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