父は罪を犯す覚悟を決めた。遮断できない通信手段が一つだけある。彼は幹部権限を濫用して偽の救難信号を発した。地獄に配備されたUAVがあがってくる。

それを敵襲だと錯覚させ、格納庫の迎撃機に飛び乗った。勿論、パイロットの情報も偽装した。

「マブゼ、友達だからいうが、地獄に落ちた娘さんは助からない」

かつての同僚が見たこともないピカピカの重戦闘機で追ってきた。「独身の君は平気な顔をできるが…」

父は縦横無尽に機体を駆って敵機の燃料切れを誘った。そこに掌握したUAVを参戦させる。くんずほぐれつの挟撃。

相手は武装を捨て身軽になるはずだ。「諦めて戻ってこい! 囚人どもは人間じゃないんだぞ」

追撃機はありったけのミサイルを放った。

「子を見捨てろというお前も鉄面皮だ」

マブゼはUAVとペアで全弾迎撃する。

「無知の恥に上塗りするか?どの口が言う」

さらに誘導弾が畳みかける。それは圧倒的な運動性能でUAVの背後を取った。すぐ火達磨になる。残りがマブゼ機を包囲した。

「娘に死化粧を施すわけにいかんのだ」

父は自機を突っ込ませた。敵機と相打ちになる前に脱出ボタンを押す。「わからずやめ!本当に化け物が…」

空席に悲壮な顔が映っていた。

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