paw-40 華の大聖女 - 02

「――それにしても結局、あのの原因はなんだったのかな?」

 モンシャが誰に言うとも無く呟く。

「だよな。大聖女様もなーんも教えてくれねぇしよ。ったくどいつもこいつも――」

 隣を歩くハーシィが苦虫を噛み潰したような顔でごちる。

「どいつもこいつも?」

「あー……それはこっちのこった。そういや――」

 ハーシィが何かを警戒するようにきょろきょろして、

聖女様は何処いっちまったんだ?」

「そうなんだよね。僕らが部屋に喚ばれた時にはもう居なかったし――」

 モンシャがその時を思い起こすように空を見上げる。

 それは一時間ほど前――


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「各々方、おもてを上げられよ」

 神官の声に、そーっと顔を上げる一同。

 眼前の一段高い席には慈愛溢れる微笑を湛えた大聖女フロゥレリーゼが錫杖を携え座っている。


「先ずは此度の件、ご苦労でした。あの時に会場に居た皆に代わり、改めてわたくしより御礼申し上げます」

 軽く頭を垂れる大聖女の姿に、周囲に控えた神官達が一瞬ざわめく。

「そしてモンシャ殿、噂以上に素晴らしい魔法の数々、感嘆致しました。それについてはまた後程伺うこともあると思いますが――」

 そこで話を区切るようにハーシィとコロンに目を向け、

「更に、その身を挺して皆を護られたハァシェイ殿、あの大火球を見事に消し飛ばしたコロネット殿、貴方がたもモンシャ殿に引けを取らぬ勇者です」

 えらく持ち上げられたハーシィは怖気がするのか背中が痒いときのような顔をしているが、コロンは素直に受け取って、にへらと顔を崩して喜んでいる。そこで喜びのあまり飛び跳ねなかったのは、事前にリータに言い含められていたからである、が――。


「――あ、あの……大聖女様、宜しいでしょうか?」

 恐る恐る、という感じでモンシャが挙手して発言する。

「どうぞ?」

「その件で、ある意味では自分たち以上に仕事をされたと思われる、リータさんなのですが――」

「――あぁ、彼女は先に帰りましたよ? 自分は飛び入りであるからここに喚ばれる謂れは無い、とのことで」

「そ、そうですか――ただ、その、あの方の聖盾の加護ハリ・アイギスが無ければ恐らく被害はこの程度では済まなかったろうと思いますので、それだけは申し上げておきたくて」


 モンシャの聖盾の加護ハリ・アイギスという言葉にさっきよりざわつく神官達。大聖女も一瞬、驚いたように眼を見開いていたが、

「――ふふ、ぬし殿はやはりぬし殿、でしたか」

「え?」

「失礼。独り言です。――まぁ、仰りたいことは解りました。殿には、貴方がた同様、御礼申し上げておくと致しましょう」

「あ、ありがとうございますっ!!」

 がば、と平伏し、我が事のように喜ぶモンシャを呆れ半分で見ているハーシィ。

「――まぁ、こういう奴だしなぁ」

「――まぁ、こういう方ですからねぇ」

 期せずして大聖女が同じような呟きを漏らしていたことなど、神ならぬ身の彼が知り得ようか。

 その後、今回の調査協力と試合出場、更ににかかる褒賞を下賜され、彼らは漸く解放されたのだった。


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「ま、それはそれとして、だ」

 気を取り直すようにハーシィが言う。

「今回の報奨金で当分、喰いっぱぐれも無くなったしよ。良かったじゃねぇか!」

「まぁ、そうだね。暫くは普通にご飯が食べられる~」

「わーい!! ごっはん~!! ごっはん~!!」

 今は帰路に就く道端なので遠慮無く飛び跳ねるコロン。

「リータさんに会えると良いんだけど――きちんとお礼はしたいしなぁ」

「お前の遭遇率なら普通に明日にでもばったり会いそうだけどなw」

「だと良いけど(^^;」


 もう少しで宿に着く、その曲がり角の手前。

 何か白いモノが目に映る。


「――ん?」


 眼を凝らして見ると、それは道端にうずくまっている――白猫だった。


「あれ? "みゆ"?」


 いつぞやの野犬騒ぎの際に居合わせた白猫――モンシャは取り敢えず"みゆ"と呼んでいた――が、どうも様子がおかしい。


「――お、ありゃこないだの白猫か?」

「うん。そうみたいなんだけど――ちょっと様子が――」

「寝てるんじゃないみたいだよ、ご主人?」


 白猫――"みゆ"はコロンの言うとおり、寝ていると言うよりは疲労しきってぐったりとなっているようだ。

 あの時は艶々としていた毛並みも光沢が無く、呼吸も不安定で、体毛で見えないが汗が酷いかも知れない。


「ど、どうしよう――こんな時、リータさんが居てくれたら――」

「居ねぇモンはしょうが無ぇだろ。どうする? 取り敢えず宿に連れてくか?」

「そ、そうしようよ、ご主人ー!!」

 "みゆ"の様子に早くもうるうるし始めたコロンの眼を見るまでも無く、モンシャは彼女を抱き抱えると二人に向かって大きく頷く。

「兎に角、身体を温めて、何か食べられるものを――」


 そして宿に戻ってからが一騒動、ハーシィは食堂で適当な食事を調達し、モンシャとコロンは寝床の準備と"みゆ"の身体を拭いて寝かせるなどし、最後に3人で遅い夕食を摂ってハーシィが自分の宿に帰ったのは深夜と言ってもいい時間だった。

 流石に疲れたモンシャとコロンも"みゆ"を真ん中に布団に潜るなり寝付く。

 ――あぁ、またコロンは子猫に戻っちゃうかもなぁ。まぁ、"みゆ"も居るし、いいか――。

 モンシャがそう思った直後、彼の意識は眠りの海に沈んで行った。


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 翌朝。


 モンシャの予想通り、コロンは"コロコロ"に戻っていた。まだすーすーと幸せそうに寝息を立てている。

 そして彼の隣で疲れたように胸を上下させ眠っているのは――


「――え!? り、リータさん!?」

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