paw-39 闘い、終わって - 04

「――ふむ、要するに原因は不明、犯人は捜索中、ということだな?」

 近衛騎士団長より取り急ぎ報告された御前試合に於ける事故の顛末に目を通した大公は髭をぴんと弾いた。

「は。後は判明次第、報告致します」

 配下の騎士団に次なる指示を下すべく騎士団長が退出すると、大公は考え事をする時の癖で己が髭を引っ張ったり丸めたりしつつ報告書を熟読していたが、やがて傍らに座す妻を見遣り、

「のう、アンジェ――流石にいい加減、姫のは控えさせた方が良くないかの?」

 心配そうに問う夫にと包み込むような微笑で返したその妻は、

「そうですねぇ――ですがあに様、あの子が大人しく聞き入れますでしょうか――?」

「お主が言うと説得力があるな……」

「あらあら……ふふ。まぁ、クゥリエール殿も付いておりますし、ねぇ?」

「チェルシード侯の倅については儂も信頼はしているが――それでも、今度のような事があれば、流石にでも手に余るであろう。――万が一があってからでは遅いのだ」

「そこですが――フロゥレリーゼ様を頼ってみようかと」

「大聖女様に? 何を?」

「あの方は試合に出られた魔導師様の御一行にも面識がおありのようですので――」

「――ふむ、神殿からの指名で護衛クェストを発注すれば」

「ええ。あの子の身元は適当なのを見繕って頂きましょう♪」

「アンジェ……その発言、一国の女王としてどうかと思うぞ……」

 浮き浮きと楽しげに悪巧みを始めた女王陛下に、若かりし日を思い出し、冷や汗が出る夫君の大公殿下であった。


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「――あの状況でし損じた、だと! 千載一遇の機会を……!」

「し、しかし閣下、あの状況であれだけの大火球を処理できる魔導師など、想定外で御座います」

「確かに、あれは撃った当人でもどうなるものでもあるまい――だが」

「はい。相手のあの魔導師――珍しい無徴種ピュレでしたので調べはすぐに付くかと」

「うむ。それとあの子供2人だな――如何な魔闘士といえど、魔法攻撃を打ち消すなぞ、聞いたことが無い」

「は。そちらもすぐに手配を――」

「但し、用心せよ。まさかとは思うが、あの大聖女のこと……何かしら勘付いておるやも知れん」

「委細承知。先ずはギルドを当たってみます」

 うむ、と首肯して声の主は窓から見える満月を睨め付ける。

 既に話の相手は姿を消しており、彼のその険しい表情を映すものは銀白の月のみ。

「――その月、いずれ、紅く染めてくれようぞ」

 彼の細く開いた瞼から覗く円い瞳孔には、ただ月だけが捉えられていた。


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「――やはり、何やら小細工を弄する者がいるようですね」

「間違いないでしょうね。あの時は、ジョドォ殿が自ら逸らしたため気付いた者は殆ど居りませんでしょうが――」

「狙いはこのわたくし、ですか♪」

「……大聖女様、そこは喜ぶところでは無いかと」

「あら、そう見えまして? 宜しいではありませんか、漸く向こうの尻尾を掴んだのですよ?」

貴女あなたといい姫様といい、肝が据わっているというのか無謀というのか……(´・ω・`)」

「あらあら、これでも恐ろしさに身が竦んで居りますのよ? されど高貴なる者の務めnoblesse obligeなれば」

「……=^Φ*Φ^=」

 彼のジト眼をくすくすと受け流し、真顔に戻ると、

「ともあれ、この件の調査は大聖堂こちらでも行います。貴方は貴方で――」

「は。市井には大手を振って行く訳にも参りませんので、そこは予定通りに。しかし――」

「貴方が過保護なのは理解致しますがねぇ、姫様は思いの外、しっかりしておいでですよ?」

「しかしまた今回のようなことがあれば、私などでは――」

 ギリッ、と悔しげに牙を食い縛り視線を落とす。

「少なくとも姫様にとっては貴方が同行していることが肝要なのです。各々が出来ることを為すのみ。そのためのですから」

「――そうですね。彼らには申し訳ないが――」

 済まん、モンシャ、ハーシィ。そう心の中で謝って大聖女執務室を後にするクーリェ――クゥリエール・チェルシード侯爵子息。

 それを見送る大聖女フロゥレリーゼ・カルミーナは夜天に掛かる満月をその細い瞳孔に写し、何事か思いを巡らせていた。


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


※次回分との内容調整に難航したため、一旦この形で公開します。

 次回分の公開時にこちらも内容を追加する予定です。('21/11/12)


※内容追記しました。('21/11/23)

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