paw-38 闘い、終わって - 03

side:B (仮面少女の独り言)


=^ΦωΦ^= =^・×・^= =^◎ω◎^= =^・д・^= =^Φ*Φ^=


「――さぁ、姫殿下ひでんか、急ぎましょう。人が来ないうちに」

 あに様がわたくしの横を並んで歩きながら急かしています。

 わたくしの背中にそっと添えられた手にも、よくよく見るとその美しいお顔の所々にも紅く小さく滲んだ跡があります。

 先程の騒ぎでわたくしを庇った際に負われた傷なのでしょう。

 あに様はいつもそう――幼い頃から、それが当たり前のようにわたくしを護り、傷つき――。

 それはこのような荒事ばかりではなく、王宮内での噂好きの雀たちの口さがない言葉に対しても、自らへの不興は構わず相対されて。

 わたくしは何時まで、この背中に護られているのでしょう。

 今回のこともそう。今度こそは自分が一人前に戦える、と証明したくて、危険は承知の上であの舞台に臨んだというのに――。

 結局は、この為体ていたらく

 今のわたくしは自分がどう思ったところで、まだあに様や皆に護られなければ何も出来ない、子供……。

 そう思うと、不意に目頭が熱くなってきました。駄目、こんな所で――。

「――あぁ、怖い思いをさせてしまいましたね、大丈夫ですか?」

 違います!! 大丈夫です、が、そうではなく――。

「私もまだまだ修行が足りませんね。これでは護衛としては失格です」

 まるで全てが自分の咎であるように仰るあに様。そんな――。

「――あに様、あの時、わたくしを庇われた時、怖くなかったのですか?」

 一瞬、ちょっと驚いたように耳をぴくんとさせるあに様。

「――ふむ、怖くない、と言えば嘘になりますが――」

「でしたら、わたくしなど放ってお逃げになれば宜しかったのです!!」

「それこそ考えるだに後が恐ろしいですよ、ふふ。まぁ冗談はさておき」

 ちょっと考える様子であに様は言葉を継ぎます。

「――まぁ、信じてましたからね、を」

「それは、あの魔導師様やお仲間の?」

「ええ。古い知り合いですので。特にモンシャの魔法なら、まぁ何とかなるだろう、と」

「とても信頼しておいでなのですね」

「それは、まぁ」

 それに、とあに様はふとお顔を曇らせて、

「あの局面で私が出来ることと言えば、せいぜい貴女あなたの盾になるくらいでしたからね」

 流石にあんなモノ相手ではこの剣も役に立ちませんから――と冗談めかして仰るあに様。

 そんな、そんなことを仰らないで――。

あに様はご立派です!! わたくしのようなお転婆の我が儘に何も仰らず付き従って下さって――」

「それが私の仕事ですよ? ――それより、ご自身がお転婆であるという自覚はおありでしたか。そこは安心致しました」

「んもぅ!! またそうやってお戯れを――!!」

「――私に限らず、貴女あなたの為に身体を張る者、命を賭ける者は大勢居るということですよ。それだけはお忘れ無きよう」

「――っ!!」

 そうですね。それは母上にも父上にも日頃から言われていました。

「まぁ、その際の一番手が私というだけですよ、名誉なことに」

「――解りました」

「結構」

「それでもいつか――いつになるか判りませんが――」

 わたくしあに様の翠色の眼をじっと見据えて、

わたくしあに様の後ろではなく、横に立って歩きたいと思います。この国の皆を護っていくために」

 あに様は一瞬、驚いたようにその眼を大きく見開くと、ふっと柔らかく微笑まれます。やだ、ここでそれはズルいです――。

姫殿下ひでんかも少しは大人になられましたね。喜ばしいことです」

 わたくしが笑顔の不意打ちにあたふたしていると――やだ、顔が熱いです――これ、顔色に出てませんでしょうか?

「それでは、今後はお忍びのご視察は控えて頂けると助かります――姫殿下ひでんかには言わずもがなでしょうが」

 先程とは一転、にーっと意地悪く笑われるあに様。

「――っ!!☆=^Φ*Φ^=☆」

 ――やっぱり、あに様は意地悪です……。

 でも何故でしょう、わたくしのこの浮き立つようなほっとするような感じは……。

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